2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も残すところ2回。これまでの大河にはなかった、“主人公らしからぬ”ダークサイドな北条義時を演じた小栗旬さんをはじめ、役者の方々の好演怪演に日曜日の夜は大いに盛り上がりました。

そこで今回は、歴史家の濱田浩一郎氏に、三谷ワールドで描かれた『鎌倉殿の13人』を振り返ってもらいつつ、来年の『どうする家康』を鑑賞するポイントを語ってもらいました。

これまでの大河とは一味違った『鎌倉殿の13人』

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』がいよいよ終わりを迎えようとしています。初回は今年の1月9日。サブタイトルは「大いなる小競り合い」でした。

伊豆国に流罪となっていた源頼朝。その頼朝は、伊豆国伊東の豪族・伊東祐親の娘(八重姫)と恋仲になり、子ども(千鶴丸)までもうけていました。しかし、祐親は平家方の武将であり、平家に気兼ねして、幼い千鶴丸を河原に誘い出し、殺してしまうのです。千鶴丸を殺害したのが、伊東家に仕える下人・善児でした。俳優の梶原善さん演じる善児が大ブレイクするとは、このとき誰が予想しえたでしょうか。

善児はその後、主人公・北条義時の兄・宗時を殺し、主人の伊東祐親父子まで殺害、果ては、源範頼(頼朝の異母弟)まで刀で突き刺していくのです。暗殺者・善児の名前がOPに映し出されると「今日も何かが起こる!」「今日も誰かが死ぬ」と視聴者を震撼させる存在にまでなる善児。

最後は自らが育てた少女・トウに裏切られ、悲劇的な死を遂げるのですが、善児は『鎌倉殿』を代表する架空のキャラクターでした。善児に象徴されるように『鎌倉殿』は、架空・実在問わず、登場人物のキャラがたっています。それもドラマが人気の1つの理由でしょう。

小栗旬さん演じる主人公・北条義時も、初回の頃と、ドラマ終盤では、別人とも思われる役柄となっています。初めは、伊豆国の小豪族・北条時政の次男として、のんびり暮らすおっとり系の若者だった義時。それが、頼朝に仕えて、数々の陰惨な謀略や殺人にかかわるにつれて、陰鬱で得体の知れない男になっていく。主人公が良い人キャラから、ダークなキャラに変貌していく。これも、近年の大河ドラマでは、余り見られなかったのではないでしょうか。

『鎌倉殿』は、源平合戦や源頼朝の死は、序章に過ぎませんでした。本来ならば、ドラマの大きな見せ場となるテーマは『鎌倉殿』の入り口に過ぎなかったのです。頼朝死後の有力御家人同士の熾烈な権力闘争こそ、このドラマの本題だったのです。

頼朝が死んだのは第26回「悲しむ前に」(7月3日放送)でしたが、その後は、毎月のように、誰かが死んでいく。第28回「名刀の主」(7月24日)では梶原景時が、第30回「全成の確率」(8月7日)では阿野全成が、第31回「諦めの悪い男」(8月14日)では、比企能員が、第33回「修善寺」(8月28日)では二代将軍・源頼家が、第36回「武士の鑑」(9月18日)では畠山重忠が、第41回「義盛、お前に罪はない」(10月30日)では和田義盛が、第45回「八幡宮の階段」(11月27日)には三代将軍・源実朝が命を散らしていきました。

だいたい月の下旬に主要人物が死んでいくことから、私は勝手に「下旬の法則」なるものを考えて、この月には誰々が死ぬなと予想しつつ、ドラマを楽しんでいました。このような、大河ドラマの見方や楽しみ方は、今までなかったように思います。

『鎌倉殿』で取り上げられたテーマは、大きな歴史のなかで言えば、地味とさえ言えるでしょう。しかし、地味さを全く感じさせず、人気を維持できたのは、脚本家・三谷幸喜さんの脚本力と、演じる俳優の演技力、個性豊かな登場人物、そういったものが、一丸となって、視聴者の胸に刺さったからだと感じます。

実朝暗殺、承久の乱を経た主人公・義時はどのような最期を迎えるのか。期待しつつ、私も見届けたいと思います。

▲義時はどうなるのか イラスト:稲村毛玉

『どうする家康』で注目される歴史人物は誰だ

さて、来年の大河ドラマは『どうする家康』です。言わずと知れた戦国武将・徳川家康が主人公。家康を演じるのは、男性アイドルグループ嵐のメンバーの松本潤さん。家康が大河ドラマの主人公になるのは、1983年放送の『徳川家康』以来、実に40年振りのことです。そのときに家康を演じたのは、俳優の滝田栄さんでした。このドラマで注目を浴びたのは、当時、若手俳優だった役所広司さん。役所さんが演じた織田信長が一躍人気となったのです。

今回の『どうする家康』では、主人公の家康のキャラも重要ですが、脇を固める有名戦国武将の存在感やキャラも、ドラマが成功するか否かの大きな鍵を握っているように思います。信長は岡田准一さん、豊臣秀吉はムロツヨシさん、武田信玄は阿部寛さんが演じます。信長・秀吉・信玄がどのようなキャラクターで家康と対峙していくのか。ここも見所の1つとなるでしょう。

また、家康を支える家臣団――酒井忠次・本多忠勝・榊原康政・石川数正・本多正信らと家康との掛け合い、時に衝突する様子も注目するべき点です。山田孝之さんが演じる服部半蔵もどのような感じで描れるか楽しみですね。

家康とその妻・築山殿(演・有村架純さん)の愛と確執も、どのように展開していくのかも注目ポイントの1つです。家康の生涯も見所満載なのです。それを脚本力と俳優力で、いかに視聴者に見せつけるかが期待されます。

そんな来年の大河ドラマ『どうする家康』の主人公・徳川家康。その激動の生涯をわかりやすく描いた新書『家康クライシスー天下人の危機回避術』(ワニブックス)を上梓しました。

家康の生涯だけでなく、信長や秀吉・信玄との関係、さまざまな合戦の実像が、歴史学の成果を基にして書いております。『どうする家康』を見るときの「副読本」としても活用できますし、家康がどのように数々の危機を突破したのかという観点から読めば、人生の難題をくぐり抜けるヒントが隠されているかもしれません。ご覧いただければ、ドラマがさらに面白くなると思いますよ。