芸能人の不倫問題が大炎上したり、気に食わないママ友に嫌がらせしたり… 日本人がこんなにも他人のことを気にせずにはいられないのはなぜなのだろうか。世界のほとんどの国々は他人のことなんてほとんど気にしていないし、興味もありません。しかし、カースト制度の根付いたインドでは、日本よりも厳しい「他人叩き」の世界が広がっていたのです。

※本記事は、谷本真由美:著『不寛容社会 - 「腹立つ日本人」の研究 -』(ワニブックス:刊行)より一部抜粋編集したものです。

「他人叩き」が大好きなインド人

世界では他人を叩くことに興味がない地域の方が多い一方で、日本と同じように「他人叩き」が大好きな文化圏もあります。代表的な国はやはりインドでしょう。

その理由はインドの社会制度に深く関連しています。

インドは日本や韓国などの東アジア圏と同じく教育を重視する社会です。ある程度裕福な家庭ですと、子どもをアメリカやカナダ、イギリスなどに留学させることが珍しくありません。そうした国々の大学では、理系の学部の場合には学生の半分近くがインド、中国、ロシアなどの生徒で占められてしまうことすらあります。

私が通ったアメリカの大学院にも多くのインド人が留学していました。

かつて私はネパールに滞在していたこともあり、インドの文化にも興味があったため、親が世界銀行に勤務しているというインドのエリート家庭出身の学生とアパートをシェアすることにしました。その縁でインド社会を内部から眺める機会に恵まれたのですが、「他人叩き」の激しさは日本以上で驚いたのを覚えています。

これはインドがカースト社会であることが大きく関係しています。

「カースト」というのは生まれついた階級のことです。インド特有の社会制度であり、現在では撤廃運動も行われていますが、残念ながら今でも生活において大変重要な役割を持っています。人間関係は同じカースト内で形成され、就職、友達関係、婚姻など生活のすべてにかかわってくるのです。

▲生まれながらのカーストが今後の人生を左右する イメージ:MaCC / PIXTA

異なるカースト間での結婚には強い反対が起こることは日常茶飯事。カーストのような厳格な社会制度を重視する国なので、普段の生活も様々な規律に縛られています。特に年長者へ反発しないことをはじめとした、家庭や組織における序列重視の意識は日本以上です。

だからこそ異なるカーストへの妬みや怒りが「他人叩き」へと発展するケースがよくあるのです。

また、インドは英語圏のように権威に挑戦する思考がそもそもないため、過激なラップ音楽やデスメタル音楽が生まれにくい土壌でもあります。

権威重視の社会ですから、エリートであっても、起業するより大企業や公的機関への就職を好みます。この点は率先して一国一城の主になりたがる中国人とは大違いです。

さらにカースト制度はビジネスの世界にも大きな影響を及ぼしています。

各々のカーストによる職業の住み分けが存在しているのです。最上位のカーストである「バラモン」は古くは伝統的に僧侶、司祭といった職業に就いていましたが、現代では政治家や国際機関職員、大学研究者、大企業の幹部や官僚になる人が多数です。

「バラモン」に次ぐ位である「クシャトリア」は王侯・武士階級、「ヴァイシャ」は商人階級、「シュードラ」は被征服民階級です。

その他にかつては不可触民と呼ばれていた最下級の集団に属し、現在では指定カースト(Scheduled Castes)と呼ばれる人々がいます。彼らが働いている企業のほとんどは、自分の身内の個人事業主や、超零細企業です。アメリカのブラウン大学とハーバード大学ビジネススクールの研究者による調査によれば、インドでは階級の縛りが存在するため、不可触民階級の人々が自分の身内以外を雇用するのが難しかったためです。

インドの人は相手の苗字を聞けば、出身地や所属カーストがだいたい分かります。

アメリカに留学してくるインドの学生の多くは、中の上や上流の裕福な家庭出身で、その多くはバラモンやクシャトリアなど高カースト出身です。

ところがアメリカにやってくると、異なるカースト出身の人と接触する機会が起こる。アメリカはカーストに関係なく留学許可を出すためです。特に実力重視の理系分野では高カースト以外の学生も多数存在します。

そのため最近の経済ブームと相俟って、上位カーストではないけれども経済的に裕福になる人も出てきています。IT業界はカーストがあまり関係ない業界なので、一旦IT業界で働いて学費をためてから留学してくる人もいます。

外資系企業に勤めれば、日本円で年収1千万円を超える人もいるのです。

▲IT業界はカーストをほとんど気にしない イメージ:Kostiantyn Postumitenko / PIXTA