昨年あたりから睡眠改善ドリンクの市場が拡大するなど、日本人の「眠り」についての関心が高まっている。その睡眠と関連する夢については科学的に解明されていないことも多いので、いろいろ妄想を膨らませてなんだか幻想的な気分になるものである。夢占いや予知夢、夢の遺伝……など、ロマンティックであったり、はたまた人々を恐怖に陥れる内容の夢について、夢と睡眠の専門家・松田英子氏が解説します。
※本記事は、松田英子:著『1万人の夢を分析した研究者が教える 今すぐ眠りたくなる夢の話』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
夢は現在の自分の心理を反映している
古代ギリシャでは、すでに夢に「アスクレピオス」という神様が出てきて、病気が治癒するアドバイスをくれていたようですので、夢占いの歴史は長いですね。
奈良の法隆寺にも「夢殿」があり、福井県の若狭姫神社には、夢を司る神様をまつる「夢彦神社」「夢姫神社」があるそうです。後者は将来叶えたい「夢」のほうでしょうか。
夢でよく「虫の知らせがあった」と認識する方がおられるように、夢占いが当たったか外れたかと判断する場合、「外れた」と解釈したものは記憶から忘れ去られ、「当たった」と判断したものだけが鮮明に記憶に残ります。
つまり、夢占いは当たるものではなく、当たったと思い込むメカニズム、最近では一般的にも使われるようになった「認知バイアス」による効果を応用したものです。
夢のように、一般的にメカニズムが不明なものには神秘性がつきまとうので、占いサイトで調べてしまいたくなる気持ちは理解できます。ただ、その受け取り方は気になります。
楽しんですぐに忘れるならOK、ポジティブに受け取り、その日、一日の行動が積極的になるならOKです。これを心理学では「自己成就的予言の効果」といいます。
その反対にネガティブに受け取り、日常の行動が消極的になる場合はまずいですね。悪夢の苦痛度尺度にも、夢をイヤなことが起こる予兆と認識する項目があり、そう捉えるほど苦痛度が上がるのです。
夢は現在の自分の心理を反映しているもので、将来起こる出来事とは関係がありません。夢の内容に左右されるのではなく、むしろ夢をどう把握して、どう行動するかが重要だと考えます。
悪夢は何かの警告ではなく、自分が「いま何を気にしているのか」を知る、よい手がかりなのです。
睡眠を含めて夢もいろいろなことが科学的にわかってきているので、主観的な夢の体験であっても客観的な側面から理解したほうがよいのではないかと思います。
リンカーン大統領は暗殺を夢で予知した?
「亡くなった人が夢で生きていて会う」「いま生きている人が夢の中では死んでいる」という夢のテーマは世界共通のもので、少なくありません。
私はそのことを知っているので、夢の中に亡くなった人が出てきても自然に受け止めますが、何かのサインではないかと心配になる人も多いようですね。
リンカーン大統領が暗殺される2週間前に、「ホワイトハウス内の大統領の葬儀」を夢にみたエピソードは、予知夢の話題では必ず出てくるものです。
リンカーン大統領は夢をみたあと「この夢の中で死んでいたのは、私でなく別人だよ」と言います。
この時点で、リンカーン大統領は補佐官から「暗殺計画をつかんだ」と報告を受けていて、たびたび脅迫状も受け取っており、未遂事件もあり、暗殺される不安が高い状態でした。
このように不安な夢と現実が一致したときに、人は「予知できていたのに」と思いこむ傾向があります。
亡くなったお父さまが生前みていた「家に泥棒が入り追いかけられる夢」を、お父さまが亡くなったあと自分もみるようになったというアーティストのQさんがいました。
この方は「夢は遺伝するのかな?」と考えておられました。
夢が実際に遺伝するかどうかはわかりませんが、「追いかけられる夢」は一般的に西洋東洋問わず多いテーマであり、私はこうした夢をみる理由として、一家の主は代々交代し、家を守る――という概念があることに関連していると考えます。
また、これ以外の夢もたくさんみているけれど「亡くなった父が言っていたな」と夢の中で認識したときに、その夢に着目し、そのほかの夢は注目せずに忘れ去ってしまう――。
あるいは、お父さまが亡くなる前にもQさん自身が類似の夢をみていたかもしれないが、着目せずに忘れ去っていた可能性もあると考えます。これも状況が一致したことによる認知バイアスで説明が可能かもしれません。