部下とのコミュニケーションを円滑にして目標達成に向けて動く、ビジネスパーソンにとって、そして4月から上司の立場になる人にとっては重要な課題でしょう。そこで気をつけたいのが「ダブルバインド」です。講演会満足度の高いプレゼンテーションプランナー・山本衣奈子氏、一方通行の「伝える」から双方向の「伝わる」になるようにする極意をが教えます。
※本記事は、山本衣奈子:著『相手に「伝わる」対話術』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
そのときの気分で話をしていませんか?
企業内で特に問題になっているのが「ダブルバインド」というものです。「二重拘束」とも言われます。ダブルバインドが頻繁に起こる組織は、そのうち崩壊するとまで言われていますので、これには気をつけてください。
何を指しているか、例を挙げます。
「お前、そのくらい自分で考えて動けよ」と言われました。だから自分で考えて動いてみたら「勝手なことをするんじゃない」と怒られました。
どちらにせよ怒られる。これがダブルバインドです。実はいたるところで起きています。
忙しいときに話しかけられて「いや、今忙しいからあとにしてくれる?」と言われます。だから、あとになってもう一回言いにいくと「なんで早く言わないんだ」と怒られるのです。どちらにせよ怒られる。
このダブルバインドが起きるとどうなるか……、言われたほうは「じゃあ、どうすればいいんですか」と思います。そして、最終的には「じゃあ、もういい」となってしまいます。
「じゃあ、もういい」――コミュニケーションにおいて、これ以上に恐ろしい言葉はありません。
「じゃあ、もういい」と言った瞬間、ここに大きな壁が降りてきます。「じゃあ、もういい」と思ったが最後、向こうからはもう何も言ってこなくなります。
人は、自分の話を聞いてくれる人の話を聞くと言われています。つまり、向こうが何も言ってこなくなるということは、こちらの言うことも何も聞かなくなるという状況を同時に作るのです。ものすごく大きな壁がここに生まれていきます。
ところが、ブレている本人は、ブレていることに気づいていないことがほとんどです。なぜなら、気分に正直なのです。気分に正直な人ほど、話はブレやすくなります。
気分は一日のあいだでもかなり変動します。どの気分のときに言ったかだけで、言うことが変わってしまいます。
話は気分でするのではなく、スタンスを決めてするのです。まずは自分が軸を持たないと、気分に振り回されて、言うことがどんどん変わっていきます。
コミュニケーションとは「キャッチボール」
「自分が気分に振り回されていないか」を確認するための目安になるのが「答えられない質問を投げていないか?」です。
答えられない質問を投げているとき、人は多くのケースで気分に支配されています。答えられない質問とはどういうものか。わかりやすいのが「お前それ、何回言ったらわかるわけ?」みたいなものです。
その返答として「5回ですかね」と言われたら、腹が立ちますよね。
「そんなことを言ってるんじゃない」と言いたくなりますよね。
「何回言ったらわかるんだ」って言っているのに「5回です」と返ってきたら腹が立つのですから、これは回数を聞く質問ではありません。
「何回言ってもわからない」という苛立ちを、質問という形を借りて相手にぶつけているのです。
相手にぶつけることを目的とした投げ方ですから、これはドッジボールです。
コミュニケーションの目的はあくまでもキャッチボールをすること、つまり、相手に捕ってもらうことです。相手にぶつけるために投げるのではありません。
キャッチボールこそがコミュニケーション。だったら、ぶつけるのではなく、捕れるように投げることがとても大切なのです。
今のケースで「なんで何度言ってもわからないんだ」と思ったとしても、その気分をそのままぶつけるのではなく、例えば「それはもう何度も言っていると思うけれども、それだけ同じ間違いをするということは、どこか理解できずに曖昧になっている部分があるはずだと思う。今まで説明したなかで、曖昧だと思う部分があるとしたら、どこなのかをまず教えてくれないか」と言います。
あくまでも一例ですから、他にもいろいろな言い方があるでしょう。でも、これが答えを望む投げかけ方なのです。言葉をぶつけるのではなく、捕れるように投げてください。投げるなら、返してもらうことを望んでください。返せないように投げるのではなく、返せるように投げてください。
まずは、このスタンスがコミュニケーションを作るのです。