「社交不安症」という言葉をご存知でしょうか? 社交不安症とは、社交の場で過度に強い不安を覚え、動悸や赤面、発汗などの症状に悩んで、日常生活が苦しく、困難な心の病気です。少し前は対人恐怖症とも言われていました。

生きづらさを感じている繊細な人=ナイーブさんには、社交不安症の方が多いです。少しでも心当たりがある方は、まずご自身が社交不安症かどうかを知り、そのうえでどのように付き合っていけばいいかを考えていきましょう。社交不安症になる原因について精神科医の清水栄司氏が解説します。

※本記事は、清水栄司:著『ナイーブさんを思考のクセから救う本』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「社交不安症」になる原因とは?

どのような状態が、「社交不安症」と定義されるのでしょうか。詳しく解説していきましょう。

社交不安症と診断される目安には、以下のような項目があります。

  1. 人前で質問に答えたり、発表や演技をしたりという、注目される状況が怖い → (はい/いいえ)
  2. 宴席、会議室、教室など、グループ活動に参加したり、他の人がすでに座っている場所へ行ったりする状況が怖い → (はい/いいえ)
  3. 人前で恥ずかしいことを自分がしてしまい、他人から否定的に評価されてしまうことが怖い → (はい/いいえ)
  4. 上記の1、2、3の怖さは度を超えていて、その状況を避けるために、あなたの生活が妨げられていたり、その状況を耐え忍んで、ひどいつらさを感じることが6カ月以上続いている → (はい/いいえ)

すべてが「はい」に当てはまると、社交不安症が疑われます。ナイーブなあなたにも、当てはまるものがあるのではないでしょうか。気にならない人からすると、なんでもないようなことでも、ある人にとっては大変な苦痛だということがあります。社交不安症のつらさを人に理解・共感してもらうのは難しいことです。

社交不安症の特徴として、小学校高学年頃から徐々に症状が現れるということがあります。一方で、学生時代は平気だったコミュニケーションが、大人になってから急に困難になってしまう人もいます。

普通に考えれば、人間としての経験を積めば、コミュニケーションのスキルも上がっていくはずです。しかし、成長の過程で社交不安症になるということは、決して珍しくありません。

▲「社交不安症」になる原因とは? イメージ:IYO / PIXTA

その原因を考えてみましょう。

子どもの頃、人前で教科書を読むのが苦手だったという社交不安症の患者さんは結構います。小学校の低学年の頃はそれほどではなかったのに、高学年になってから人の目が気になりだした、という方が大勢います。

一般的に小学校低学年までは、何事にも自分が中心であるかのように振る舞えますが、高学年になると自意識が目覚めたり、「させていただく」とか「申し上げる」といった、へりくだった謙譲語を覚えます。自己中心的ではいけないと考え、急に人の目を気にするようになり、社交不安症が始まるきっかけになります。

中学校に入ると、不登校になってしまう子がクラスに1人はいるというデータがあります。これも社交不安症の問題が関わっていることが多いと考えられているのです。

次のハードルは、大学でしょうか。高校までは教室の席が決まっているので何も考えなくて構いませんが、大学の講義室は席が決まっていません。すると、誰の隣に座っていいかわからなくて不安になってしまう。さらにゼミに入ると、人間関係が濃密になってきて戸惑ってしまう。

学校の場合は、イヤな日であれば休むという選択も可能ですが、社会人になると、「明日のミーティングが不安だ、イヤだ」と休むわけにもいきません。

さらに、新人の頃は言われたことをやればいいだけですが、リーダーや主任といった肩書が付くようになると、メンバーの前で話をすることが避けられなくなってきます。それまでは人前での発言も、だましだましやってきたという方が、つらくなって休職してしまうというケースもあります。

きっかけとなるライフイベントを思い出す

こうしたきっかけとなる人生の出来事を、心理学の世界では「ライフイベント」といいますが、ライフイベントがはっきりわかっていれば、そのときの考え方を見直すような認知行動療法で対処のしようがあります。これがわからないという場合は、一緒に探していく作業を行います。

「いつから人前で話すのが苦手でしたか?」と聞くと、「そういえば、中学校1年生、13歳のときにこんなことがあって」と思い出すといった感じです。

社交不安症の患者さんには、たいてい何かのきっかけとなるライフイベントがあります。

▲きっかけとなるライフイベントを思い出す イメージ:Fast&Slow / PIXTA

小学校の発表会がつらかった、というような小さな頃の記憶を語ってくれる方もいます。人見知りや社交不安症の人は、いい表現を使えば、それぞれのライフイベントに感受性が強いのです。

感受性が強いナイーブさんは、鈍感な人には感じられないような些細なライフイベントでも幸せを感じることもできるのです。