人生100年時代。しかし、寝たきりの時間が伸びたところでほとんど意味はないだろう。人生の後半戦を楽しむためには、自分の足で歩けることが何より大事であるといっても過言ではない。スポーツ学の名医・小林弘幸氏が老後も元気に歩き続けるための「かんたんスクワット」を伝授します。

※本記事は、小林弘幸:著『突き抜けるコンディション革命』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

足腰のケガで一気に寝たきりになることもある

体も心も前向きな姿勢を保ちたいときに、運動の習慣は大事です。とくに、ゆっくりと呼吸をしながら行う運動は、全身の血流をよくしてくれます。また、運動をしている瞬間は、自分の感覚だけに集中できるため、暗い気持ちを消すこともできます。運動をしない理由はありません。

「自分も、そろそろ運動を習慣にしよう」――あなたがそう自分に課したなら、ジムと契約するのはいい選択だと思います。人間、先にお金が出ていくことには「元を取らなきゃ」という考えが働くものです。ただ、お金をかけたくない、近くにいいジムがない、忙しいなどの理由でジムに行けない、行きたくないという方もいるでしょう。そんな方におすすめしたいのが、自宅でやる「かんたんスクワット」です。

なぜスクワットがよいのかというと、昔から言われている通り、やはり足腰が一番大切だからです。どんな運動をするのにも、まずはしっかりと立つこと。ふらつくことなく前後左右のバランスを取りながら、全身の姿勢を保持することが第1の基本です。

そして、両足でリズミカルに移動する歩行が第2の基本。極論すれば、このふたつができなくなったとき、動物の一種である人間は一気に衰退していきます。

「健康寿命」という言葉をご存じでしょうか。WHO(世界保健機関)が公表したこの指標は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されていて、日本の健康寿命は男性がおよそ72歳、女性がおよそ75歳とされました。

一方、平均寿命は男性がおよそ81歳、女性がおよそ87歳ですから、健康寿命との差は男性で約9年、女性は約12年も「介護状態」になることを意味します。それでも足腰が強ければ、介護が必要になる状態を避けられる可能性は上がります。

足腰の衰えは、歩けない、移動できないというだけではなく、転倒しやすくなることに直結します。それが骨折につながるケースも多いのです。年老いてから骨折すると、長いあいだ運動ができなくなりますので、再び同じ運動能力を獲得するのには並々ならぬ努力が必要となります。というより、それがきっかけで一気に寝たきりになることのほうが多いのです。

そうでなくとも足腰が衰えると、出かけるのがおっくうになってしまうことでしょう。すると脳に新しい刺激が与えられなくなり、認知症のリスクも高まります。

▲足腰のケガで一気に寝たきりになることもある イメージ:kou / PIXTA

スクワットは自宅でできる運動ですし、道具も必要ないため、たくさんの人が取り組んでいます。スポーツする時間を特別に作るよりも、“どこでも運動をする”という姿勢のほうがおすすめですし、結果的に長続きするでしょう。

実際、私自身も6年前から続けていますが、下半身が鍛えられて、ゴルフの飛距離が伸びました。まだ伸びると思っています(笑)。

スクワットの最大の魅力は、大きな筋肉を効率よく鍛えられること。太ももの筋肉、裏側のハムストリング、表側の大腿四頭筋という人間の筋肉のなかでも特別に大きい筋肉を強化できるので、それが全身の活力につながります。

ただ、やり方を間違うと、ヒザや腰に負担がかかって、ケガの原因になってしまいます。ストレッチをするときに、完全にヒザが曲がるくらい腰を落とし込むのはおすすめしません。それは、正しい形でやらないと腰やヒザを痛めてしまうからです。

そこで、私がおすすめする「かんたんスクワット」をご紹介しましょう。

やり方は本当に簡単です。誰でも楽しみながら、気軽に長期間続けられるはずです。

いつでもどこでも気軽にできる簡易的なスクワット

「かんたんスクワット」の約束はふたつ。ひとつは「ヒザを90度以上曲げてはいけません」というもの。ヒザを折り曲げて腰を深く沈み込ませるスクワットのほうが、運動の強度は高まりますが、それをやるのにはそもそも筋力が必要ですし、正しいフォームが維持できていないと、すぐにヒザや腰を痛めてしまうのです。

しかし、ヒザを90度以上曲げない、簡易型のスクワットであれば、運動の強度もそこそこあるうえにケガの心配はほとんどありません。

もうひとつの約束が「沈むときに、ため息のように長く息を吐くこと」です。やり方の注意事項はこれだけ。いつでもどこでも気軽にできますよね。

ため息と一緒にゆっくりヒザを曲げすぎない範囲で曲げて、ゆっくり戻します。運動不足の人であれば、まずは朝晩3回ずつから始めましょう。続けることに意義があるので、それで十分なのです。もの足りなく感じたら、1回ずつ増やしていったらいいでしょう。たったこれだけの運動でも、次のような効果が期待できます。

まず、老化の3大ポイントと呼ばれる「自・筋・血」、つまり、自律神経・筋力・血流の3つに一気にアプローチできること。

深く長い呼吸をすることでまず、自律神経のバランスを整えます。

また、腹筋や背筋など体幹の筋肉を使うことや、腸に運動刺激を与えることで、排便への好影響が期待できます。「腸」はコンディショニングにとって非常に重要な臓器なのです。太ももの大きな筋肉が鍛えられるため、効果的に筋力アップが図れるのは先述したとおりです。

また、深い呼吸や、太ももやふくらはぎの筋肉を伸縮させることで、血流を促進します。全身に酸素が送り込まれるためリフレッシュ効果があります。脳にも多くの酸素が届き、認知症予防にもなるので、とにかくいいことずくめなのです。

▲いつでもどこでも気軽にできる簡易的なスクワット イメージ:koumaru / PIXTA

意外と忘れがちなことですが、あなたが一番若いのは「今日」なんです。5年後、10年後に、元気に笑って暮らすために、今できることをやっておきましょう。

私は朝、昼、夜に各3回ずつ行っています。ラグビーに本格的に取り組んでいた大学時代は、ヒザを深く曲げていましたが、今は軽く曲げるだけ。おかげで、激しい運動などはしていませんが、今も大学時代の体重と体形を維持できています。