ある一流ゴルファーは、ライバルがパットをする際に心から応援するという話があります。「与える」と考えることで、心の状態が整い、ハイパフォーマンスが発揮されるからだそうです。スポーツドクターの辻秀一氏が、心の状態を整える脳の技「ライフスキル」のなかで、仕事とは関係なく「楽しい」という感情をつくり出す方法を紹介します。

※本記事は、辻秀一:著『「与える人」が成果を得る』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「仕事が楽しい」では集中力は長続きしない

「仕事が楽しい」と、毎日そう思って働けたらどんなにいいでしょう。

しかし、残念ながら多くの人の頭の中は、すでに「仕事はつまらない」「仕事は大変」「仕事はイヤだ」「こんな仕事したくない」といった意味付けであふれかえっています。

その意味付けをなんとかしようとするのではなく、仕事とは関係なく「楽しい」という感情をつくり出すのもライフスキルです。

仕事自体に楽しさを見出せれば理想的ですが、自分を機嫌良くする思考で自分の心の状態をフロー(機嫌がいい状態)にしていければ、楽しい気分でやるべきことができるようになります。

誰にでも子どもの頃は、何をしても楽しかった時代がありました。豆を右のお皿から左のお皿に動かすだけでも楽しいし、泥団子を1日中こねているだけでも楽しかったのは、そのときそのときが単純に楽しかったからです。

勝つとか負けるに関係なく、結果や理由や原因を求めることもなく、ひたすら一生懸命に遊んだ経験が皆さんにもあるはずです。その楽しさは理屈ではありません。

ところが、大人になるにしたがって「泥団子をこねて何が楽しいの?」「豆を移動させて、なんの得になるの?」と結果や理由を求め、何か得がないと楽しくないというネガティブな意味付けがされていきます。

そして、ネガティブな意味付けをした分だけ楽しさから遠ざかるので、“一生懸命やる”そのものの楽しさを忘れてしまいます。

「一生懸命」と「楽しい」は、本来ワンセットです。しかし私たちは、それぞれ別々のものとして分けて考えようとします。

「一生懸命やったから、ご褒美に楽しく飲もうよ」という発想はその典型です。一生懸命やることは、ご褒美が必要なほど苦しいことだと錯覚しているのです。

子どもだったあなたは「一生懸命が楽しい」ことをよく知っていたはずです。そもそも人間は、ただ一生懸命を楽しめるという遺伝子を持っているのに、大人になるとその遺伝子がオフになってしまうそうです。

オフになってしまった遺伝子をオンにする、もしくは子どもの頃に夢中で遊んだあの感じを思い出す、そのカギがライフスキル的な思考です。

仕事を一生懸命やろうとか仕事を楽しもうとかではなく、思考によってオフになっている遺伝子をオンにしていく発想です。

だから「一生懸命を楽しもう」と考えているだけで、フローな風が少し吹くのです。

無理やり「仕事が楽しい」と自分に言い聞かせても集中力は長続きしません。逆に、ストレスになることもあります。「一生懸命を楽しもう」と、ただそう考えてみてください。

▲「仕事が楽しい」では集中力は長続きしない イメージ:Sunrising / PIXTA

仕事や勉強やスポーツが良くできる人の共通点

「一生懸命が楽しい」は、自分ひとりでできる、そして、結果に依存しない楽しさです。道具はいらない、場所もいらない、人もいらない、条件もいらない、いつでもどこでも、自分さえいればつくり出せるライフスキル的な楽しさです。

ライフスキル脳を磨いている人は「楽しい」を自分でつくり出せます。「一生懸命を楽しもう」と考えたときに感じる「楽しさ」は、あなた自身がつくり出した感情です。

ライフスキルを使っていない人の「楽しい」は、いつでも結果次第です。結果が出ると達成感や満足感が得られるし、自己肯定感も上がります。

しかし、結果エントリー(結果重視)の楽しさは刹那的で、しかも自分ではコントロールできません。そもそも必ず結果が出るとは限らないし、結果が出ても自分の思い通りの結果ではないかもしれません。

結果エントリーが、悪いわけではありません。結果が出たら大いに楽しみましょう。しかし、結果に関する「楽しい」しか持っていない人は、ノンフロー(機嫌が悪い状態)のリスクが多いと言わざるを得ないのです。

給料日やバカンス、仲間と盛り上がっているときはもちろん楽しいものですが、その楽しさはノンフローと紙一重。

一方で「与えよう」と考えて、ライフスキル的に自ら創造した楽しさは、決してあなたを裏切りません。

過去や未来にとらわれて適当にやっている自分よりも、今、ここで、一生懸命やっている自分のほうが質の高い楽しさを創造できるのです。フロー状態になれば、パフォーマンスは格段に上がります。仕事や勉強やスポーツが良くできる人は、無意識にフロー状態をつくり出していることがほとんどです。

フローな自分で我を忘れるほど夢中になって一心不乱に取り組めば、どんな人でも集中状態になってパフォーマンスは上がるのです。

▲仕事や勉強やスポーツが良くできる人の共通点 イメージ:Lunedi / PIXTA