盛岡の「さわや書店」で外商部所属として働く栗澤順一氏は、さわや書店が開催するイベントを仕切るだけでなく、盛岡市内の公共機関や企業が主催するイベントのコーディネートまでを引き受け、新聞に書評を書いたり、ラジオに出演したりもしている。

書店員という枠組みから飛び出して、本の街・盛岡を駆け回る栗澤氏が『本屋、地元に生きる』(KADOAKWA)を発売したので、これまでの活動を振り返ってもらいながら、今後の展望についてインタビューした。

▲さわや書店・栗澤順一

タイトルへのこだわり書店と“本屋”は違う

――この本を書くキッカケをお教えいただけますでしょうか。

栗澤 お客さんのところに行って仕事のやり取りをする際に、自分のやっていることを伝えきれなくなってきたと言いますか、うまく伝えられない部分が出てきたので、一回まとめておく必要があるんじゃないかって。これはずっと、田口さん(元さわや書店)とかにも言われていたんです。

もうひとつは、それもあって業界向けにコラムみたいな感じで書いていたんですけど、そのコラムがKADOKAWAの編集さんの目に留まって「一般向けにも書いてみたらどうですか?」という感じで。

――それっていつ頃だったんですか?

栗澤 コロナ前の2018年くらいですかね。

――『本屋、地元に生きる』というタイトルは、どうやって決めたんでしょうか。

栗澤 編集さんと話をしていているなかで、まず「書店ではなく“本屋”にしましょう」という。あと、キーワードとして地元というか、“地場に生きる”というのを入れたいというか。そういうのを踏まえて編集さんがつけてくれました。

――“本屋”というのが栗澤さんのこだわりなんですね。

栗澤 そうですね。やっぱり書店と本屋は違うなと。このあたりは田口さんとも話したんです。「うちらは書店にはなれない」って。なんていうか、きっちりとシフトやローテーションを組んでする仕事はできないねって。僕たちの仕事は本屋だという話をしていたんです。

震災後に開催した講演会が現在につながる

――本を読んでいると、栗澤さんにとってのターニングポイントみたいなのが3つあると思うんです。まず最初、書店員になる前はちょっとブラックな広告会社にいたんですね。

栗澤 そうなんです。そこで営業の仕事をしていたんですど、徐々にツラくなって辞めました。

――今、思い返したときに役に立ったと思うことはありましたか?

栗澤 やっぱり、働くことへの意識ですかね。人より多く働いても抵抗感がないと言いますか。さすがにこの歳になるとキツいですけど、そこで体力はついたと思います。あと、営業をやらせてもらっていたので、そこで基本的なことを学びました。

“最後は一周して元に戻るんだな”とも思いました。営業がイヤで、店売のつもりでさわや書店に入社したのに、営業に戻っているという。これが面白いなと。

――ハハハ、確かにそうですね。

栗澤 意外と無駄になることないなと。仕事しているうえでは、どっかで何かしら役に立つんだなと思いました。

――次に震災のことをお聞きしたいのですが。栗澤さん自身も釜石に実家がありましたけど、振り返ってというか、2023年だから語れることはありますでしょうか?

栗澤 自分の中でちょっとは消化できたかなと思いますね。不思議な感じなんです、気持ちの置き場がないといいますか。自分が高校まで18年間も暮らしてきた場所なんですけど、そこにいたときには何もなくて、そこ離れてから、なぜあんなことが起きるかなと。あとは、そのときに個人的に何もできなかったという、負い目みたいなのがずっとあるんでしょうね。

で、ワニブックスさんにもお世話になりましたが、講演会をやったりとか、被災地を支援している方とつながって、いろいろ動くことができて、若干でも負い目みたいなのが薄まってきたかなと、そういう気がしますね。

――講演会などのイベントを企画しようと思ったキッカケは?

栗澤 当時は田口さんがフェザン店の店長だったんです。徐々に震災関連の書籍が増えていって、次のステップとして自分たちに何ができるかな? となったときに、まずは「講演会がいいんじゃないか」ということになったのと、個人的にも話を聞きたかったんですよね。

私もなかなか被災地に足を運べなかったので、そこを実際に見て聞いて、現場の人たちと触れ合ってきた人たちの話をすごい聞きたかったんですよ。それでやってみようかとなったんです。

――今では数多くイベントの企画をされてますけど、手ごたえを感じたということですよね。

栗澤 はい、大きなキッカケでしたね。「できるじゃん」と。自分たちでもやれたというのが大きかったですね。

――3つめは直近で新型コロナ。店舗は営業時間を短縮したり、講演会などのイベントはできなくなりましたよね。

栗澤 コロナに関しては、イベント関係も含めてですけど、人と人が会って生まれることが多いな、ということを再確認できました。これからコロナが明けていくと、イベントが増えていくと思うんですね。

問題は、そのあとなんですよ。そこをどうやっていこうかと考えています。例えばですけど、お葬式とか結婚式とか、コロナで集まれないとなったとき、お葬式だったら家族葬にしようとか、結婚式であれば100人規模でやろうとしていたけれど、少人数だけにしてみようとかとなったときに、意外と“これでもいいじゃないか”ということがあったと思うんです。

今までやっていたことが消えていく部分ってあると思うんですよ。だから、講演会などのイベントでも、コロナ明けのバブルが落ち着いたあとに、“やらなくてもいいかも”みたいなのがありそうだなと。

それは書店、店頭も似たような感じだと思うんですよ。コロナ禍の頃は、店頭に足を運べないからネットで注文していたけど、やっぱり実際に手に取ってみたいとなって書店に来てくれる。

書店に足を運んだけれど「あ、これだと別にネットでいいじゃん」となれば大変じゃないですか。だから、一次的に客数は若干は増えると思うので、そこでいかにお客さんをつなぎとめられるかが大事です。