読売テレビで長年番組制作に携わってきた山本一宗氏が、コンプライアンスのプロの立場から見た「子どもたちに知っておいてほしい世の中の決まりごと」をわかりやすく紹介した『子どもコンプライアンス』(小社刊)を発売した。

SNSいじめ、フェイクニュース、誹謗中傷、飲食店での迷惑行為……さまざまな問題が取り沙汰されるなかで、大人として“世の中の決まりごと”をどうやって子どもたちに教えたらいいのか? 著書にまつわるエピソードやメディアの現状などについて、山本氏にインタビューした。

ルールブック的な本にはしたくなかった

――1988年に読売テレビ放送入社後、現場で数々の番組制作に携わり、2019年からは番組・CMの表現考査などの仕事をされてきました。“コンプライアンスのプロ”である山本さんが、子ども向けに本を出されたのはなぜでしょうか。

山本 当初は業界の人に向けた本を書ければと思っていましたが、これまで子ども向けのこうしたジャンルの本がなかった、という話が編集者との打ち合わせで出たんですね。それから僕自身の思いを言うと、小学6年生になる息子がいるんですが、この分野では教えることが多岐にわたりすぎて、自分自身でも整理がつかないと感じていました。

地上波のテレビ番組の考査をする場合、放送に関する法律が決まっていたり、放送倫理が厳しく問われたりと、そのものさしが明確にあって判断基準がある意味、非常にわかりやすい。けれども、インターネットの場合、法律は関係しているはずですが、実際には守られておらず野放しな部分が多いですし、コンテンツや広告の表現に関しても“よくないな”と感じるものがたくさんあります。こうしたことが背景にありました。

――文章にはひらがなも多く使われていますよね。何歳ぐらいの子どもを想定して書かれているのでしょうか。

山本 スマホを持ち始める年頃ということで、小学3年生~4年生というターゲット設定をしています。ただ、インターネットの利用は子どもによって異なるため、本を読んで理解できる子もいれば、できない子もいると思います。ですので、年齢にはあまりこだわっていません。逆に、ひらがなは多いけれど、大人でもあまり知らないのでは? というような知識もたくさん書いています。

――たしかに親自身、ネットリテラシーについて学ぶ機会がなく、詳しくない人も多いかと思います。この本はQ&A方式になっているので、大人が子どもにクイズ形式で質問するなど、親子で一緒に考えながら読むのもよさそうです。

山本 一緒に読んでいただくのが一番いいと思います。大人でも意見の違いがあったりするので、これをキッカケにきちんと考えたり話したりしてもらえたら。

――子ども向けに執筆するうえで苦心されたところはどこでしょうか。

山本 「子ども向けということでQ&A方式でいきましょう」と最初に言われて「わかりました」と答えたんですが、このQ&Aを作るのが大変でした(笑)。子どもが思いつくような質問を先に作ることもあれば、自分が書きたいことに合わせて質問を作ることもありました。子どもたちの生活のなかで、どのような状況があるのかな、どのシーンを例えに出すのがいいのかな、などを考えるのが難しかったですね。

――「ほかの人の意見を聞くことは大切!」や「意見をちがうのははずかしいこと?」といった、とても初歩的なことから書かれていて驚きました。

山本 「赤信号は止まりましょう」という交通ルールのような各論って、子どもには響かないと思うんです。LINEを舞台にしたいじめでも「LINEでいじめちゃダメですよ」なんて言われなくても知ってるし、最近ニュースにもなった飲食店での迷惑行為の動画投稿だって、なんとなくいけないことだとわかってはいると思うんですよ。

だから、ネットでやってはダメだと書かれていることを、ルールブック的に書くことはしたくないという気持ちがありました。それよりも、その奥の前提の部分となる「子どもが、どういう倫理観や知識を持っていれば正しい判断ができるのか」ということが大事だと思っていて。

そうした「そもそも持っておかなくてはいけない概念」というところは、本来だったら家庭で教えるものだと思うのですが、それが今、価値観の多様化とか情報量の多さといったところで難しい場合も多い。そこに対する問題意識もありますね。

――この本では「人をきずつけない」「ほうりつを知って命を守ろう」「お金ってなんだろう」「正しいじょうほうを見分けよう」の4つの章立てになってますが、どのように決められたのでしょうか?

山本 読売テレビにいた最後の3年半では、番組や広告の表現考査についてガッツリ取り組んでいたことから、当初は第4章にあるような情報の見分け方やリテラシーに関するテーマで書けると考えていたんです。

けれど、編集者から提案された4つの章立てを整理するにつれ、先ほど話したような「前提の話をきちんとしないと伝わらない」と思い始めました。ネットのダークサイドや誹謗中傷、いじめなどに近づかないためには、その手前のところを書かないと意味がないと思い、1章から3章までは過去の仕事で学んだことを引っ張り出してきました。

たとえば、第1章では人権や多様性について書いていますが、読売テレビでBPO(放送倫理・番組向上機構)を担当していた際に人権研修などを社内でおこなったので、そこでの学びが入っています。第2章は法律やネットのルールを知ることで、トラブルや事件から身を守ろうというのがテーマです。

第3章はお金のことについて、バーチャルな決済はお金が目に見えないこともあり、子どもがついゲームなどで課金しすぎたり、お金をめぐるいろんなトラブルに遭うことが多発しています。この1章から3章が前提としてあって、4章で一番伝えたいことを書きました。