1作目は芸人のことを書かないといけない

――又吉さんの『火花』を読んだときに、芸人から逃げなかったことにすごく感動して。ファビアンさんも芸人をモチーフにされているじゃないですか。そこにはどういう想いがあるんですか?

ファビアン テクニカルなことで言うと……芸人をテーマにショートショートを書いてる人がいなかったからとか、それしか書けないとか、取材がいらないとか、いろいろあるんですけど、想いとしては……芸人って手前のことやるのは、“サムい”みたいなのがあるんですよ。

でも、又吉さんの『火花』を読んだときに、正面からぶつかってるなって。ガガッと心を持っていかれて……。“あ、これはこの人だから書けたんだ”と思ったんです。自分もそうあるべきだなって思うことがあって、まず1作目だけは芸人のこと書かないとなっていう……なんか、宿命みたいなものがありましたね。

――それは、又吉さんから何か言われたとかではなく、ですか?

ファビアン ではないですけど、又吉さんの1作目が『火花』だったってことには絶対に影響受けてますね。ミステリーとか出してたら、自分も芸人から遠いテーマで勝負しないといけないのかなと思っていたかもしれないです。

――やはり又吉さんに大きな影響を受けている、ということですね。あと、“取材がいらない”ってことだと、出てくるのが“すり鉢状の劇場”とかなので……無限大ホールをイメージせざるを得ない(笑)。

ファビアン ただ、他事務所の芸人が読んだら、“あれ、こんなんじゃないぞ、芸人”って思うかもしれないです(笑)。

――すごく当たり前のことかもしれないですが、ファビアンさんが芸人やっててよかったなって思うのは?

ファビアン やっぱり、おもしろいって言われたときですね。「あの人がおもしろいって言ってたよ」とか。身近な人、芸人じゃない人とかに言われたときとかですかね。あと、まあ、オカンが褒めてくれたときとか(笑)。

――逆に、イヤだなって思うときは?

ファビアン うーん、なんか、すっごい僕の中の話ですけど、ボケ同士って照れ合うんですよ。この人におもろくないと思われたくないって。その人と2人っきりで長時間過ごさないといけない状況になったときとかは、“イヤだなあ”と思ってました(笑)。“何しゃべっていいかわからん、どういうふうに会話したらいいんだろう”って(笑)。

――好きだからこそ、つまんないやつだと思われたくないなみたいなのって働きますよね。

ファビアン そうです、芸人になりたての頃はすごいありましたね。あと、イヤなことは……ま、売れないと人権はないですね(笑)。

――(笑)。直接的には書かれていないですけど、この本の中に出てくる芸人さんも、悲哀というか、悲しみみたいなものが根底にあるように見えます。

ファビアン 相手にされないというか、やっぱりありますよね。売れてる先輩や後輩と一緒に歩いているときに、声をかけてきた素人の方に写真を撮る係をやらされたりとか。そういうのが重なってきますよね、えぐるように(笑)。まあ、売れてないから仕方ない。でも今、それも含めてちゃんと愛せるようになってきたかなっていうぐらいの時期だから、その部分も書けたんだと思うんです。

▲あわよくばとしても頑張っていきたいと話す

登場人物のモデルは自分だったり・・・

――突っ込んだ話になっちゃうかもしれないですけど、再結成してすごくよかったと思ってます。

ファビアン あ、本当ですか。

――はい。再結成のきっかけが、デビュー当時のネタをやるライブで、やっぱどこか照れあってるというか、付き合う前の2人みたいな感じがあって……。それで、周りが“もう1回やりゃいいじゃん”みたいな感じで組まれたのかなって。

ファビアン まさにそうですね。同期がいなかったら、再結成してないかもしれないです。

――芸人さんから言われた言葉で、印象に残ってる言葉はありますか?

ファビアン 養成所の講師の前田政二さんが「吉本はネタや、ネタを持ってない人は売れへん」と言ってて。吉本以外の芸人、特に東京だと売れる可能性もあるけど、吉本はネタなんやな、と。それが何かを諦めずに作るようになってるきっかけにはなってますね、確実に。

――この本に登場してくるのってフィクションの芸人さんではあるんですけど、モデルになっている人っているんですか?

ファビアン まずは、副社長の藤原さん(笑)。思いっきり藤原さんっぽい人は出てきます。あとは……ごちゃ混ぜって感じですね、自分でもあるし。

――ちなみに、自分っぽいと思うのはどの話ですか?

ファビアン そうですね……『まい君』の主人公は、自分の良いとこだけ書いてます。

――あはははは!

ファビアン 良いとこだけ! ピュアな部分だけ(笑)。あと『藍情』は自分に近いかもしれないです。なんか、自分のことを書きすぎるのが恥ずかしいのもあって。僕、母子家庭なんですけど、親父をあえて出してみたり(笑)。

あと、『スケルトン』の主人公は……“こういうやつイヤだな”っていう、自分の部分をいっぱい選出して書いてます(笑)。僕もよく人のせいにするんですけど、“人のせいにしますよ!”って堂々と言いたいじゃないですか。そういうのを書きました(笑)。

――なるほど。陽と陰みたいに、対(つい)になっている話もあるんですね。

ファビアン そうですね。でも、自分の要素は全部どこかに入ってる感じはしますね。『腸々 〜cho cho〜』の解散したところとか、解散の理由は合ってる部分もあるし。