その独特な語り口調や、ワードセンスが光るツッコミで知られるオズワルド・伊藤俊介。彼の著書『一旦書かせて頂きます』(KADOKAWA)を読むと不思議な感覚に襲われる。彼の綴った文章が“伊藤の声”で再生されるのだ。

メイプル超合金・カズレーザーの言葉に背中を押されてはじめたnote、『ダ・ヴィンチWEB』の連載、さらに今回のための書き下ろしを加えたエッセイが収録されている。彼の知られざる過去はもちろん、仕事のことや家族のこと、相方・畠中悠のことなど、伊藤の現時点での胸のうちを知ることができる一冊だ。

今回は、そんな伊藤の語りを“文章”で堪能できる著書のことを中心に、インタビューを行った。

▲伊藤俊介(オズワルド)

「文才あるね」と言われるのもうれしい

――きっかけとなったカズレーザーさんには、どんなことを言われたんですか?

伊藤 2020年ごろ、コロナ真っ只中で、芸人みんな何をしたらいいのかわからなかった時期に、ボソッと「noteで文章を書くのとかどうかな」と言ったら、メイプル超合金のカズ(レーザー)さんが「絶対やったほうがいい。たぶん、この時期に芸人がいろいろ始めるだろうし、それが仕事につながる世界だから。こういう機会でもないと書かないし、やってみたほうがいいんじゃない?」って。それが連載につながって本にもなったんで、めちゃくちゃありがたい一言でしたね。

――帯もカズレーザーさんが担当されていますね。

伊藤 4つくらい案を送ってくださったんですけど、そのなかの3つが「最初はカギカッコ使ってなかったのに、途中から使い始めた。文字数を稼ごうとしてる」みたいなボケばっかり書かれていたんで、今回使わせてもらった文を採用させていただきました。

――(笑)。改めて“文章を書くこと”と対峙したとき、どんなことを思いましたか?

伊藤 日記を書く人の気持ちがちょっとわかるというか。たとえば、エピソードひとつにしても、テレビや舞台で話すときは、そんなチンタラ喋れないけど、文章っていろんな言葉を使って書くじゃないですか。そうやって書いてるうちに、見えてくるものがある感じはしますね。

――寄り道ができて、そこにまた新たなゴールが生まれるというか。

伊藤 (連載には)規定の文字数があるんですよ。そこに届いてないと話にならない。たとえば、編集者さんに「イチゴ」というテーマを投げてもらったとき、イチゴについて何千文字か書くわけじゃないですか。それはもう本気出してイチゴについて考えるわけですよ。

となると、エピソードを書くときも、“違う角度から見てみよう”とか、自分の意見を書くにしても“それについて他の人がどう思ってるんだろう?”とか、ちゃんと考えるようになって、普段なら向けないところにも目を向けられた感じはしましたね。

――執筆業を通して発見はありましたか?

伊藤 「文章が面白い」と言われることって、芸人として「面白い」と言われることとは、また別の喜びがあるなと思いました。『ダ・ヴィンチWEB』​​さんから連載のお話をいただいたときも、おそらくnoteを続けていたほうがすぐに金にはなったけど、それよりも編集者さんがnoteを読んでくれて、“この人に仕事を与えたい”と思ってもらったことのほうがうれしかった。

僕は“承認欲求の化けモン”で、とにかく褒められたいんですよ。これ(この欲)はとどまることを知らないし、たぶん一生なくならないものでしょうね。「面白い」と言われたいのと、「死ぬほど金が欲しい」という太い柱2本でやっているなか、「文才あるね」と言われるのもめっちゃうれしいなと気づきました。

――『ダ・ヴィンチWEB』​​さんからエッセイのオファーを受けたときは、どんな心境だったんですか?

伊藤 そもそも、エッセイがなんなのかもわからずに書いていますからね。「これはエッセイだ」と言われるから“エッセイなんだ!”と思いますし、「こんなのエッセイじゃない!」と言われても“あ、こんなのエッセイじゃないんだ!”と思うだけというか(笑)。

――これまで経験がなかった編集者さんとのやりとりで驚いたことは?

伊藤 noteをやってたときと連載との大きな違いは「この言葉は別の言い回しに変更できないでしょうか」と修正されることですね。テレビもラジオも文章も、たぶん同じエピソードでも、聞こえ方や見え方が全然違うなと思いました。