ピース又吉には出会った日に誘ってもらった

――又吉さんとの関係性はかなり深いとは思うんですけど、“書く”ということに関してアドバイスをもらったりしましたか?

ファビアン 直接的なことで言うと……あとがきを書く前に「あとがき、どうしたらいいんですかね」って聞いたら、『月と散文』(KADOKAWA)の前書きを朗読してくれて。“あ、それぐらい自由でいいんだ”っていうのを教えてくれました。なので自由に書いたっていうのと。

あと、「ここに風景を挟めばいいんじゃない」など、小説家としてのテクニカルなアドバイスもあったんですけど、基本的には今回の執筆に限らず、もう文章とか背中で見せてくれてるんで……「ここまで書かないといけないよ」って。

――なるほど。

ファビアン だから、登場人物、特に主人公には、ちゃんとその人なりに叫ばせるように、叫ばせるところまで書くようにはできたかなと。

――“人を描く”ということですね。

ファビアン そうですね。ちゃんと追い詰める、とか(笑)。

――あまり愛情を持ちすぎてもいいように転がしちゃうから……土壇場というか、そういったところも登場人物に味わせないといけない?

ファビアン そうですね。そうしないと、ちゃんと人間を描けないというか、叫ばすことができない。『まい君』とかは、追い詰めてはないと思うんですけど、一番描きたいところに感情のピークをどう持っていくか……みたいな。そういうのをエッセイでも小説でも、又吉さんが見せてくれてるって感じですね。漫才でも、コントでも。

――そもそも又吉さんと知り合ったきっかけって?

ファビアン 1年目のとき、又吉さんがまだ無限大ホールに出ていた頃、平成ノブシコブシの吉村さんとか、サルゴリラの児玉さんとかが、僕らのネタをモニターで見たらしくて。又吉さんに「めっちゃ似てるやつ入ってきましたよ」って(笑)。

――えーー!(笑)

ファビアン 又吉さんがモニター見て「いや、外国人やんけ!」ってなったらしくて(笑)、全然似てへんやん!って。

――あはははは! でも、それってネタを見てってことですよね?

ファビアン そう、吉村さんと児玉さんは、たぶんボケ方を見て「似てるやつ入ってきましたよ」と言ったんだと思います。そしたら、又吉さんは見た目にまず驚いて(笑)。で、その日に誘ってくれたんですよね。原宿に買い物に行って、今は日本から撤退した『トップマン』っていうブランドで靴下買ってくれて。その後、ゴールドラッシュっていうハンバーグ屋に飯食いに行って。なんか、デートみたいな感じ(笑)、それが最初でした。

――あわよくばのネタは、ボケ方が“ちょっと気持ち悪くておもしろい”っていう感じがするんですけど、それが又吉さんのネタに近い感じがあるんじゃないかって。

ファビアン たぶん、線香花火(又吉の以前のコンビ名)に似てると思ったんじゃないかと思います。

千鳥の大悟さんには読んでほしいけど・・・

――文章のアイデアはどこからくるんですか?

ファビアン 言葉遊びとかも多いし、“これ、こうなったらおもろいやろうな”って絵が浮かぶことが多いですね。そこが1つのボケになってるので、あとはそれがある世界のあるあるを考えていく、みたいな作業になるんですけど。設定が出たときには書きたいことがあって、そこがラストなことが多いので、どう組み立てていくか、どう辻褄あわしていこうか、みたいな感じですね。

――あわよくばさんは漫才の印象しかなかったんですけど、コントもやられてましたっけ?

ファビアン コントは単独ライブでやったのが何本かあるんですけど、コントは見た目が関係してくるので、普通のネタがやれないんですよね。

――あーなるほど。でも、今その話を聞いて、すごくコントの作り方なのかなって。

ファビアン そうですね。コント、すごい良いネタができて、前にキングオブコントの予選でやったんですけど。僕が教会の神父で、息子の授業参観にその格好で行って、家帰ってきて息子から怒鳴られる、みたいなネタなんですけど(笑)。見た目が違うから血はつながってない、みたいな流れになるネタで……。

――めっちゃ面白いですね(笑)。

ファビアン すごく自信もあって、途中までウケてたんすけど、相方が途中でネタ飛ばしちゃって……。そこからしぼんじゃって、“うわ、最悪! こいつ何してんねん”と思って、時間切れで終わっちゃったんですよ。それがめっちゃ腹立って。

終わって楽屋に戻ったら、相方がそんなに真剣に考えてなくて、“やっちゃった”みたいな感じでわちゃわちゃしてるのを見たら、それにまためっちゃムカついて怒鳴っちゃって。それを神父の格好のままで言ったから、楽屋がめっちゃウケたんですよ。ネタ以上に(笑)。

――あははは! その遺恨はもう残ってないですよね?

ファビアン 大丈夫です、再結成前なので…(笑)。

――この本を読んだ感想って、どなたからもらったりしましたか?

ファビアン たくさんもらいましたね。それこそ、又吉さんからいただきました。「めっちゃおもしろかった。一つ一つのクオリティがめっちゃ高いしおもしろいし、物語も感動したわ」って。

――この人に読んでもらいたいとかありますか?

ファビアン 東野さんにも渡したんですよ。もちろん相方にも読んでもらいたい。あと、僕は笑い飯さんと千鳥さんを見て芸人になったので、4人には読んで欲しいんですけど……大悟さんは、あんなに又吉さんと仲いいのに『火花』をちょっとしか読んでないらしいので、諦めてます(笑)。

▲笑い飯さんと千鳥さんに読んでほしい!

――今後、挑戦してみたいことってありますか?

ファビアン 長編は書かないといけないなっていうのと、やっぱ映像化まで持っていきたいですよね。逆に自分は映像化するようなやつしか書けないんじゃないかって思ってるくらいです。最初はネタと思って書き始めて、そのあとに文芸っていうものを知って、すごい作家さんに触れて。で、純文学とエンタメの違いを知って、自分は純文学じゃないなと思ったんですが(笑)。

――そうでしょうか?(笑)

ファビアン もしかしたらテーマ的には考えさせられるっていうのはあるかもしれないけど、表現や文体とかに関しては書けないなっていう……。純文学って一文が芸術じゃないですか。だって僕、“怪訝(けげん)”って言葉も最近まで知らなかったんですよ(笑)。なんて読むんだ?って、不思議っていう意味なんだ!って。

――それでここまで書けてるのがすごいです(笑)。

ファビアン だから、すぐに使っちゃうんですよ、最近知った言葉を(笑)。


プロフィール
西木 ファビアン 勇貫(にしき・ふぁびあん・ゆうかん)
1985年、徳島県生まれ。日本人の母とドイツ人の父を持つ。2009年、吉本総合芸能学院(NSC)を卒業し、吉本興業所属の芸人となる。同期の小川とあわよくばを結成。あわよくばとして新人賞を取ったり、個人では名古屋でレギュラー番組を持ったり、『アメトーーク!』に出演するなど活躍するものの、コンビは解散。以後、執筆活動を始め、「渋谷ショートショートコンテスト」優秀賞、「第9回沖縄国際映画祭」クリエイターズファクトリーで映画企画コンペティション・グランプリ、「小鳥書房文学賞」などを受賞。解散から2年後、あわよくばを再結成。現在は、漫才コンビ「あわよくば」としても活動している。Twitter:@fabian_westwood