統一教会の「無給秘書」を受け入れた政治家たち
第二の事例は「統一教会、勝共連合」です。
勝共連合は韓国を中心に、日本・台湾・アメリカなどで反共産党の運動を展開した組織です。日本では各大学でサークル活動を行ったほか、全国各地の自民党支持者を中心に反共運動を実行し、スパイ防止法の成立を目指す運動なども活発に行っていました。
勝共連合は、こうした運動の一端として、青嵐会などの右派系議員を中心に、勝共連合メンバーを政治家の事務所に「無給の秘書」として大量に送り込んでいました。無給で働く秘書の提供を政治家たちは喜んで受け入れました。当然、秘書という立場上、議員たちの内密の行動や文書などに通じ、各議員の内部事情にも詳しくなります。
勝共連合は、韓国の宗教団体「統一教会」の別動隊でもあります。反共組織ではありますが、母体は宗教団体ですから、メンバーは当然、“二面性”を持っていることになります。
統一教会の教祖は文鮮明です。同会はかつて「血分けの儀式」や「霊感商法」などでマスコミをにぎわせました。
文鮮明の教義は「共産主義はサタン(悪魔)だ」というものです。熱狂的な信者たちは「勝共連合」の活動に邁進し、身をささげてきました。ところが、本拠地をアメリカに移して間もなく、教祖・文鮮明に脱税事件が発覚。国外追放となりました。これを機に、文鮮明は北朝鮮との距離を縮めていきます。
それまで、文鮮明は「反共」を掲げ、KCIAとの関係をバックに活動を続けてきました。しかし、もともとは北朝鮮の出生で、かつては金日成一族と同じ教会に通っていたと伝えられています。
1991(平成3)年11月30日、文鮮明が北朝鮮を電撃訪問し、金日成と会談したことをきっかけに、統一教会は北朝鮮との関係を深めていきました。
統一教会に関するデータがすべて消えた
文鮮明が「サタン」と手を結ぶのに時間はかかりませんでした。「反共」組織が突然、北朝鮮を支持する「容共」組織に早変わりしてしまったのです。
勝共連合は根っこが宗教組織ですから、教祖の指令は絶対です。現在は北朝鮮サイドに立った南北統一行動という運動を、日本および韓国国内で活発に展開しています。当時、勝共連合の「無給秘書」が派遣された自民党右派系国会議員のデータは当然、北朝鮮サイドに渡ったと見るべきでしょう。それは同時に中国の諜報機関にも流れたものと推察されます。
反共組織だった勝共連合が、突然「北朝鮮の別動隊」になったのですから、治安関係者にとっては重大事件です。
統一教会の“大転換”が発覚する直前、警視庁でも大きな問題が発生していました。統一教会を専門に担当していたKという人物が、通信部門に出向となり、担当を離れたのですが、1年半後、もとの部署に戻ると、統一教会、勝共連合のデータファイルが跡形もなく忽然と消えてしまっていたのです。
後任を託した担当警察官も退職して行方がわかりませんでした。この一件は警視庁のなかに統一教会のメンバーが潜り込んでいた事実を物語っています。
これにより、警視庁の担当部署には統一教会、勝共連合に関する資料が一切ないという異常な時期が続いたのです。一方、そのあいだも公安調査庁は、日本国内はもちろん韓国国内における統一教会、勝共連合の動向も含めて、こと細かに情報収集し続け、情報組織としての存在感を示しています。
この2つの事例だけでも、「“最悪の事態”に備え、情報組織は複数であるべき」というリスクヘッジ的な考え方が、インテリジェンスの分野において妥当であることがおわかりいただけるかと思います。
※本記事は、福田博幸:著『日本の赤い霧 極左労働組合の日本破壊工作』(清談社Publico:刊)より一部を抜粋編集したものです。