総務省統計局によると、空き家は全国で824万戸(平成30年統計)で増加の一途を辿っている。空き家になった「実家」を放置しておくと「特定空き家」に認定されてしまい、固定資産税は最大6倍にもなってしまいます。誰も住む者がいないからと実家を放置しておいて問題が発生すると、過失責任が問われることもあります。実家の空き家問題について、会計・税務対策の第一人者である牧口晴一氏が、わかりやすく解説します。

※本記事は、牧口晴一:著『日本一シンプルな相続対策 -認知症になる前にやっておくべきカンタン手続き-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

誰も住むことのなくなった空き家の末路は悲惨

誰も生まれなくなった「実家」は大きな問題です。やがて、そこは幽霊屋敷化し、浮浪者が住むなどして、不法投棄・放火の危険も生じます。そればかりか、台風で屋根が飛び、近所に損害を与えることもあります。

私の妻の実家でもありました。台風で壁材がはがれて、隣家の愛車ベンツを傷付けてしまったのです。真っ青です! 早々、私たち娘夫婦は隣家に謝罪に走りました。確かに自然災害では賠償責任はありませんが、そこはご近所のこと、僅かなりともお詫びの金員など包んで……となりました。これが、人を傷付けていたら…と考えるとゾッとしました。

▲誰も住むことのなくなった空き家の末路は悲惨 イメージ:haku / PIXTA

実家を放置していて、管理が悪いと過失責任が問われることもあります。責任があったとしても、住宅扱いなら火災保険の個人賠償責任特約が使えます。

でも、空き家となると、この特例の対象外となるうえに、保険料が倍になってしまいます。火災保険も住宅用だから安いのです。最悪の事態では、放火されても保険金がおりないことすらあり得ます。

こうした一連の危険から、2015年2月に空き家法が施行されて、所有者の責任が一層重くなりました。この法律で「特定空き家」に認定されてしまうと、固定資産税が最大6倍、都市計画税は3倍になってしまいます。

さらに「特定空き家」は、解体命令を受けてしまうことになります。無視すると役所が代わりに解体し、その解体費用の請求を受けることになります。解体費用は、最低数百万円になるでしょう。まさに“負動産”です。財産が凍結されていたら、解体費用も子どもが立て替えとなります。

▲『日本一シンプルな相続対策』より

「特定空き家」になる前に自主的に建物を解体しても、土地は残ります。更地は住宅用ではないので、固定資産税などは同様に上がってしまいます。

2023年に国の空き家の引き取り制度が始まりました。しかし、10年分の固定資産税を管理費として国に納める必要があるのです。こうして、空き家は全国で824万戸(総務省平成30年統計)になり増加の一途です。

固定資産税などは親の口座引き落としだから大丈夫、と思ってはいけません。それは、あなたの相続すべき貯蓄がどんどん目減りしていることなのです。

認知症になる前に、子どもに実家を贈与し、親が住み続けてはどうか? しかし、これも問題です。贈与で子どものものになると、子どもが勝手に売ることができてしまいます。万が一、子どもに見放されると、親は住み家を失うリスクがあるのです。

「家族信託」では、契約目的に「親の老後・介護に役立てる」という制約があります。だから、子どもが親を無視して勝手に処分することはできません。

認知症でなくとも、年老いた親は、おっくうになって「なんとかなるさ」と対策を放置しがちです。そのツケは結局、あなたに回って来るだけのことです。ここは子ども世代が立ち上がらなければなりません。最低限、子どもが代わって処分できるという自衛策を立てる。それが家族信託なのです。

空き家になって、半年経過すると、みるみるうちに廃墟化が進みます。それまでに、できるだけ有利な価額で売却したいものです。

しかし、タダでもいいからと処分することも多いのです。処分できれば、以後の負担も心配がなくなります。生前から、処分する権利を子どもが持っていないと、相続後に、下手をすれば相続税を負担したうえに、処分する羽目になります(詳しくは「0円物件」や「家いちば」などを検索してみてください)。

▲『日本一シンプルな相続対策』より