2023年の「ITエンジニア本大賞」ビジネス書部門の大賞に輝いた『メタバース進化論』(技術評論社)の著者であり、“原住民”でもあるバーチャル美少女ねむさんに、仮想空間メタバース世界の“リアル”についてインタビュー。原住民の生態からコミュニケーションの違いまで、いろいろと教えてもらいました。

▲バーチャル美少女ねむさんにインタビュー

寝ているときもメタバースで過ごす原住民たち

――「メタバース原住民」とは、どんな人たちですか?

ねむ 今のメタバースは技術的にも文化的にも未発達です。そんな発展途上の場所に、強い意志を持って住んでいる人たちが「メタバース原住民」です。まだまだ発展途上、というニュアンスを伝えたくて“原住民”という言葉を使っています。原住民は毎日長時間過ごす人が多く、1日に3時間以上いる人が半数以上です。私も仕事が終わると、ガブッとVRゴーグルかぶって寝るまでいますし、寝ているときもコッチにいる人たちもいますね。

――VR睡眠は特別なものではなく、日常的にやっているんですね。

ねむ 夜に入ると、その辺に寝ている人が普通にいるんです。私は、こんなの(ゴーグル)被って寝るなんて考えられないと思っているんですけど(笑)。寝苦しいですよね。VR睡眠はそういう寝苦しさより、“みんなと一緒にいたい”という気持ちが勝っているんだと思います。

――1日のタイムスケジュールはどうなっているのでしょうか?

ねむ 私の場合は仕事が終わって、だいたい20~21時から入って、日付が変わって1~2時までいる感じでしょうか。3時くらいになったら、みんな寝ちゃうんですよね。2~3時ぐらいまでが、いちばん原住民が元気な時間帯です。

▲VRゴーグルを装着してくれた

仲良くなるのに“中の人属性”は関係ない

――原住民同士で接していて、中の人の年齢や性別はわかるものですか?

ねむ この感覚、そちらの世界で暮らしている皆さんには理解できないと思うんですけど……相手を見ても全然わかんないです。「〇〇ちゃんイェーイ」みたいに、すっごい仲良くなっている相手が、会話のなかで「この人、私よりひと回りふた回り上?」ということがあったり。逆に「私より年上だと思っていたけど、中学生だったの?」みたいなこととかもありますし。

現実世界だと、そこまで年齢が離れている人と知り合ったり、仲良くなれたりしないですよね。でも、ここだと年齢とか性別が抽象化された状態で身体コミュニケーションができます。「相手の魂と直接触れ合っている」感覚です。

――コミュニケーションで気をつけるべきことはありますか?

ねむ 基本的には現実世界と同じです。強いて言えば、現実よりはるかに多様性が強い世界なので、自分の常識が相手に通用するとは限らない前提でコミュニケーションする、ということでしょうか。あとは、現実世界の属性を無理に聞き出さないとか。現実だとお互いにプライバシーをどれだけ開示できるかで、お互いの仲の良さを証明するみたいなカルチャーがありますけど。

――なるほど。

ねむ 逆に言うと、メタバースでは「見えているもの」に対してはズカズカ言っていいんです。名前もアバターもその人が選んで、その人のなりたい自分が表れているので。例えば、私に対しては「こういう絵柄が好きなんですか?」とか「なんで“バーチャル美少女ねむ”って名前なんですか?」とか聞いていい。そういう感覚がわかってくると、メタバースで友達を簡単につくりやすくなります。

――外見にはどんどん触れるべし、ですね。ちなみに、皆さん声はどうされているのでしょうか? ねむさんはボイチェンされていますが。

ねむ 声を変えるのってめちゃくちゃ難しいんです。VRの技術がシンプルに思えるぐらい、音響技術って奥の深い世界。なので、生声の人が半数以上だと思います。なかには、昔ニコニコ動画とかで流行った「両声類」、男の人なんだけど女の人の声が出せて歌ったりできる人がいます。

無言勢の人もいますね。現実と違って喋らなくても別に困らないんですよ。タイピングして頭の上に吹き出しで文字を出したり、顔の周りにハートマークを出したり、いくらでもコミュニケーション手段はあるので。

――なるほど。ボイチェンや無言勢の人もいるとはいえ、声は性別を感じるポイントではありそうですね。

ねむ 声でわかっちゃうかもしれないですね。

――メタバースではどんな会話をしていることが多いんですか?

ねむ アニメの感想とか、職場の愚痴とか、本当に取り留めのない雑談が多いですね。学者さんが集まって、ひたすら論文を読んでいるコミュニティとかもあるんです。そういう場所では、大学院生とか大学教授とかが研究の話ばっかりしています。