魂をさらけ出して生まれ変われる場所

――メタバースが日本人と相性が良いと思うのはどんな点ですか?

ねむ 日本人は自分を切り替えるという考え方に、すごく寛容な民族なんじゃないかなと思っていて。それがメタバースに適応しやすくしている側面はあると思います。一つ関係あるかもしれないな、と思うのが宗教です。

日本は多神教の国ですよね。私は「魂にスポットライトを当てて、いろんな影ができる」という表現をしているんですけど、このスポットライトの数が神様の数だと思ってください。日本は八百万の神なのでいろんな自分を出していい、いろんなスポットライトを当てて、いろんな自分の影の形をつくっていい。その影の形こそが、その人の新しい姿だと思っていて。

伝統的な歌舞伎の女形とか、人形浄瑠璃を見ても、日本には性別や属性を越えてアバターを使って自由に表現するという文化が根付いていると思います。これらがVTuberみたいなものが世界に先駆けて日本で生まれた原動力になっていると思うし、メタバースでもいろんなカルチャーが日本から発信されています。

――宗教や文化からメタバースを捉えることもできるのですね。

ねむ メタバースはテクノロジーというよりは価値観です。自分の魂の中に潜っていって、新しい自分を見つけられる。いろんなアイデンティティをまとって新しい生き方ができる。そういうところが、単に現実世界をバーチャルな世界に持ってきたのではない、新しいところなのかなぁと思っています。

私も初めからこういう姿をしているわけではなく、試しているうちに意外と自分に美少女が合っているなと、いつの間にかこっちの姿で暮らしている時間のほうが長くなってしまったんですけど。そういうの(現実とは違う自分の可能性)って現実の世界にいると気づくことすらできないんですよね。

――ねむさん自身もメタバースに入って変わりましたか?

ねむ 変わりましたね。こうやって今、なぜか夜な夜な取材を受けていますからね、意味がわからない(笑)。音楽ライブやったりとか、CD出したりだとか、本出したりだとか、現実の自分では考えられないことなので。メタバースなんて自分関係ないよと思っていても、ここに来て魂をさらけ出して意外な生き方をするようになる人は多い。すごくいいことなんじゃないかなと思います。

▲『メタバース進化論』でVTuberとして初の大賞を獲得した

――メタバースの外見に引っ張られて、自分の内面も変わっていく。

ねむ 「プロテウス効果」という心理学の言葉があるんですけど、衣装によってその人の性格が変わることは現実でもあることです。例えば、鎧をまとって強そうな格好をすると攻撃的になったりとか。その振れ幅が(メタバースでは)断然大きくなる感じですね。

――最後に、日本にメタバースが根付くために何が課題だと感じますか?

ねむ メタバースの発展には時間がかかるし、無理に根付かせようとする必要はないと思っています。今は投機的な捉え方をされることが多いじゃないですか。それってちょっと違うんじゃない? とも思います。100年後とかそういうスパンで見たら、いずれ人類はこっちで人生の大半を送るようになるのは明らかです。スマホとかと一緒で不可逆的なもので、VR技術だってこれからどんどん発達します。

強いてあげるとしたら「価値観」でしょうか。仮想世界でなりたい自分になって、自由に生きていく。そういう新しい常識を、果たして人類が受けて入れてくれることができるんだろうか。そういうことのほうが課題で、人類にとって分岐点になると思いますね。