アイドルとは『永遠』の存在ではない
アイドルとは『永遠』の存在ではない。
極論をいえば、お披露目をした瞬間、卒業へのカウントダウンが始まっているのだ。
応援する側もそれはわかっている。でも推しと一緒に過ごす時間はあまりにも楽しくて、キラキラ耀いて見えるから、この時が永遠に続いてほしいと願う。いや、永遠に続くものだと思いこんで熱狂する。
だから、いつだって卒業発表では精神的に大きなダメージを食らうし、さらにワンランク上の解散発表ともなれば、頭の中が真っ白になってしまう。
B.O.L.Tの解散発表は、本当に突然のことだった。
その日、僕はAMEFURASSHIのライブを取材するため渋谷にいた。昼の部が終わり、食事をしに行こうと外に出ようとした瞬間、「じつは……」と関係者からB.O.L.Tの解散を耳打ちされた。
あまりの急展開に絶句した。そのまま食事をしに行くと、客席のあちこちから、解散のニュースを知ったライブ流れのファンが「えっ!?」とスマホを覗きこみながら固まっていた。まさに白昼の衝撃。まったくの想定外だった。
そのままAMEFURASSHIのライブ会場に戻り、夜の部を観覧したのだが、いつもよりも前のめりになって見てしまった。「推しは推せるうちに推せ!」というアイドル界隈で語り継がれる名言が頭の中で鳴り響いていた。
B.O.L.Tの名を渋谷の街に轟かせる4人
「もうこれ以上、入れません!」
3月12日の朝、渋谷のライブハウスの入り口で係員が叫んでいた。
B.O.L.Tの解散発表から、わずか2日後。彼女たちは渋谷のライブハウスを縦断して開催されていたフェス『アイドライズ』に出演していた。
朝イチの出番だし、かなり広い箱だったので油断していたが、熱心なファンに加えて、解散で話題のグループを一目見ておこう、という観衆が加わり、会場は入り口のドアが閉まらなくなりそうな勢いでフルハウスに。
なんとかギリギリ潜り込むことができたのだが、最後列から眺める超満員のフロアはまさに壮観。そして、その先に見える4人のパフォーマンスも、いつもより躍動感が増しているように感じた。
理由はわかっていた。メンバーが解散について、あまりしんみりとしたムードを醸し出さなかったことがひとつ。そして、このイベントではマスク着用なら発声が認められていたから。
B.O.L.Tの単独ライブでは、まだ声出しが解禁されていなかったので、コロナ禍で彼女たちと出会った僕にとって、大歓声を浴びて歌い、踊る姿を見るのはこれが初めてのことだった。
あぁ、こんな姿をもっと見ていたかったな。せっかく声を出して応援できる環境が戻ってきたのに解散はもったいないな……思わず、そう考えてしまったが、それはきっと大きな間違いなのだろう。解散の日までに声出し解禁が間に合った、と4人の門出を祝ってあげるのが正解なのだ、おそらく。
ステージが終わるとたくさんの観客が会場の外へ。その光景をみていた他のアイドルのファンが「なんだよ、これ!」「B.O.L.Tだって」「こんなに動員できるのに解散しちゃうのか~」と語り合い、野外駐車場での特典会にできた長蛇の列には道行く人たちが「誰? B.O.L.T? すげぇ~」。最後の最後にきて、その存在感をこれでもか、と渋谷の街に轟かせる4人だった。
午後からは内藤るなと高井千帆が参加している浪江女子発組合のステージも。こちらは開演前から、数年ぶりに声出しを許されたモノノフたちが、あーりん(佐々木彩夏)への愛を叫びまくるというカオスな空間となっていたが、負けじと「高井千帆さーん!」とぶちこんでくる猛者もチラホラ。そう、ストレートに感情を表現できる場は、もうほとんど残されていないのだから、叫びたく気持ちはよくわかる。
今から数年前、浪江女子発組合の書籍を作る準備をしていた。そのために福島県浪江町まで足を運んでいたし、あとは撮影するだけだったのだが、残念ながらご破算になってしまった。
理由は説明するまでもないだろう。コロナ禍で浪江町での定期公演が開催できなくなってしまったからだ。高井千帆と愛来がフロントに並んだ画が、越境ユニットならではの無双感たっぷりで好きだったし、それをグラビアにがっつり落とし込みたかったのだが、形に残すことができなかったのは残念至極である。
そんな彼女たちの姿をしっかりと目に焼きつけたかったのだが、なんと当日になってAMEFURASSHIが体調不良により欠席。メンバーの半分を欠いた形でのライブとなってしまったのだ。
さすがにこれがラストステージになるのは……と思っていたら、4月に浪江町で定期公演を開催し、それが高井千帆が参加する最後のライブになる、とのアナウンスが。こちらもギリギリ間に合ったようだ。よかった。本当によかった。