もう笑ってもらえなくなるかも…という不安

――そうしたエピソードをはじめ、テレビ番組では話す機会がなさそうなことも赤裸々に綴られていますね。

ほしの そうですね。自分の人生について書くためには、思い出したくない記憶とも向き合わなければいけなかったので……執筆中はとてもツラい思いもしたし、涙も流したし、命を削るような思いで原稿と向き合いました。

あと、僕は芸人なので、こうした重苦しい過去について書くことによって、もしも世間の見え方が変わってしまったら、もう笑ってもらえなくなってしまうんじゃないかという葛藤もあったんです。これまで公表していない事柄も多かったので、周りの誰にも相談できず……。「本当にここまで書いてしまって大丈夫かな」って不安も大きかったですね。

――芸人人生に響くかもしれないと。それでも書き上げたのは、冒頭でも話されていたとおり、読んでラクになってくれる人がいるんじゃないかと考えたからなのでしょうか。

ほしの はい。もちろん「自分を知ってもらいたい」という気持ちもあるのですが、この本と出会ったことで前向きになってくれる方が一人でもいたらいいなと。それって、お笑いをやっているモチベーションにも近いのかもしれません。お笑いも、自分のことをさらけ出すことで、人に楽しみや喜びを与えたり、何かしらの感情を引き起こすものだと思っているので。

――ほしのさんも、お笑い、そして音楽と出会ったことで救われた経験をお持ちですよね。

ほしの そうですね。いつも音楽をいっぱい聴いて、自分を勇気づけていました。なので、昔聴いていた曲を今聴くと、蘇るものがありますね。最後の手術の前に聴いていたASIAN KUNG-FU GENERATIONさんのアルバム『ファンクラブ』は特に思い入れがありますし、あれがあったおかげで乗り越えられたなと。そういう経験もあり、音楽は欠かせない存在になっています。

「自分の声って!?」YouTubeで初めて気づいた

――先ほど「歌うことは大好きだったけれど、同時に抵抗も感じていた」とお話されていました。それが今では考えられないくらい、多くの人に歌声を愛されています。

ほしの 歌声を発信するようになったキッカケは、コロナ禍に開設したYouTubeチャンネルでした。当時はお笑いの仕事がゼロ近くまで減ってしまって、“芸人の仕事も諦めなければいけないのかも”と考えていて。そんなとき、元相方(前コンビ「カーディガン」たつがえりょうた)が「YouTubeをやってみないか」と声をかけてくれたんです。

元相方は、コンビ時代から「ほしのくんの歌声、いいよね」って言ってくれていて、歌ネタもやっていたりしたんです。なので、自然と「歌ってみた動画も公開してみようか」という話になりました。実際に公開してみると、全く想像していなかったほど大きな反響があって。

それまで、この声のせいでからかわれたりしたこともあり、とにかく嫌いだったんですよ。なので、YouTubeのコメント欄で「歌声が好きです」という声もいただいて、「僕の声っていいんだ…!?」ってビックリして。

――そのタイミングで初めて気づいたんですか!

ほしの すごく意外でした。それまでずっと一人で練習していたので、音程を合わせるということはできると思っていたのですが、「声がいい」と言われるとは考えもしなかったですね。

もともとの声質も、今ほど高くなくて。僕はクリープハイプさんの大ファンなのですが、尾崎世界観さんの歌声と出会って、クリープハイプさんの楽曲をカラオケで練習し続けたことで、ハイトーンになっていったんじゃないかと思います。今回、この本を出すときも尾崎さんに帯コメントを書いていただいて。本当にうれしかったです。

――昨年は歌手としてメジャーデビューを果たしましたね。

ほしの 音楽が大好きなだけにアーティストに対するリスペクトも大きいので、正直に言うと自分がプロのレベルに達しているとは、いまだに思えていないんです。

病気という、多くの人にないものを背負いながら生きてきたので「これを自分なんかがやってしまってもいいんだろうか」という意識が人一倍強いと思うんです。でも逆に、だからこそ自分にしかない表現もあるんじゃないかな、と考えるようになりました。それはお笑いでも、音楽活動でも。なので、自分は自分のやり方を追求すればいいんじゃないかなと。

――ほしのさんが作った曲が聴けるような日も来るのでは……と、勝手に期待しています!

ほしの 作詞作曲はとても興味があるのですが、音楽の知識や経験が少ないので……今、ギターの弾き語りを練習しているところなんです。ギターの練習配信も、毎週やっていたりするんですけど、なかなかうまくならなくて(笑)。

僕が作った音楽は、絶対に明るい曲調にはならないと思います(笑)。「ほしのディスコ」という芸名でお笑いをやってますけど、ダンスチューンではない気がするんです。ただ、この本に込めた僕の気持ちと同じように、聴いてくださった方が少しでも前向きになるような応援歌がいつか届けられれば、うれしいですね。


プロフィール
 
ほしのディスコ
本名・星野一成(ほしの かずなり)。1989年群馬県出身。マセキ芸能社所属のお笑い芸人。2014年あいなぷぅとともに、男女コンビ「パーパー」を結成。 キングオブコント2017、およびR-1ぐらんぷり2020のファイナリスト。8月1日(火)には座・高円寺2にて『パーパー ほしのディスコ ONE MAN LIVE “ DUAL WIELDING ”』を開催予定。Twitter:@hoshinodisco88、Instagram:@hoshinodisco88、YouTube:ほしのディスコちゃんねる