スマホを置いたからこそ出会えたもの

――スマホを持たない旅は、台風もあって新幹線が停電するなどトラブルから始まりますよね。そこもワクワクしていたんですか?

ふかわ 大前提として、日本のインフラに対する安心感はありました。ただ、限られた日数のなかで、どこまで進めるか不安でしたし、本来であれば、停車中にスマホで情報収集したり、メールしたりすると思うんですけど、(スマホがないから)何も情報が入ってこない。そういった退屈も果実として味わいました。

今回「スマホを置くだけで、生活の彩りに変化があるだろうな」と、ほぼ確信に近い状態で旅に行ったんですけど、結果的にスマホを置いたからこそ、出会えたものがたくさんありました。“利便性”というひとつの価値観がありますが、生きてて「いいな」と思うことって、それだけじゃないじゃないですよね。効率の良さだけが幸せじゃないわけで。非効率なこの旅の中に、これからの豊かさが潜んでいた気がします。

――旅を文章に書き起こす際に意識したことは?

ふかわ 「スマホで埋められていた隙間から、どんな景色が見えるだろう」ということですね。この目で見た色や掴んだ感触を、いかにして言葉で伝えるか、どれだけ伝えられるかを意識しました。

――執筆中は、楽しい旅を思い出すことにもなりますし、有意義な時間だったのでは?

ふかわ 旅を追体験できるのも楽しみだったりするので、すごく好きな時間ですね。海外の旅だと、素材があって心配することないんですけど、今回は「アフリカ旅行」とか「〇〇縦断」とかそういった大袈裟なものではなく、3泊4日の国内旅行というスタンダードなもの。「スマホを置くとどうなるのか」に焦点を絞っただけなのに吸収度が違ったので、僕的にはちょうど良かったなと思います。

▲執筆中に思い出すことで旅を追体験できた

――新生活を過ごしている方も本を手にすると思います。新しい学校生活や、新しく仕事を始めた方に、何かアドバイスを送るとしたらどういう言葉をかけますか?

ふかわ 僕の場合は海外によく行きました。いろんな価値観に触れるのはいいなと思います。あと、周りの顔色が気になる人も多いと思うんですけど、周りの顔色を気にしてると、自分自身が疲れてしまうので、疲れてしまったら、スマホを置いてほしいなと思います。もちろん、無理強いはしないですけど。

もしかすると、それによって心の平穏が取り戻せるかもしれない。スマホを置くことで、彩りが変わって、見える景色も変わってくるのかなって。「世界を変える」のは難しいと思うんですけど、「彩りを変える」って難しいことではないと思うんです。もし疲れたら、そういうことをやってみてもいいんじゃないかと思います。

――最後に、この旅を終えて、ふかわさんはスマホについて、どんな未来を期待していますか?

ふかわ 「スマホを悪にしたくない」というのは前提で、スマホを持っていなくても驚かれない社会、選択肢のひとつとして「スマホを持たない」が普通にある社会になるといいなと思います。この資本主義社会で、なかなか道のりは長いのかもしれないですけど、それが健全な社会のような気がします。便利さ・利便性を追求していくと、最終的にスマホのない“手ぶら”にたどり着くのではないか、そんな期待を抱いています。

▲スマホを置いて旅してみませんか?

プロフィール
 
ふかわ りょう
1974年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学在学中の1994年にお笑い芸人としてデビュー。長髪に白いヘア・ターバンを装着し、「小心者克服講座」でブレイク。現在はテレビ・ラジオでMCやコメンテーターを務めるほか、ROCKETMANとして全国各地のクラブでDJをする傍ら、楽曲提供やアルバムを多数リリースするなど活動は多岐にわたる。著書に『ひとりで生きると決めたんだ』、『世の中と足並みがそろわない』(ともに新潮社)などがある。Twitter:@fukawa__rocket