「りんごだから絶対に赤」である必要はない
――幼少期は漫画に影響を受けたとおっしゃってましたが、漫画を描こうとは思わなかったんですか?
中島 今も「漫画描いてみませんか?」ってお話をいただくこともあるんですけど、漫画を描きたいとは思わないんですよね。以前に出した作品集で漫画家の岩澤美翠さんと対談したときに、“私とは全然違う”と感じたことがあって。
岩澤さんは「漫画は物語のその先にあるキャラクターの運命まで伝えるのが役割だと思う」ということをおっしゃってたんですが、私は瞬間を切り取って、いろいろな情報を絵の中に込めたいんです。切り取った結果、受け取り方は自由でいいというか、好きに受け取ってもらえればと思うんです。なので、すべてをお話に起こすっていうのは大変なことだし、漫画家さんはすごいことやってるな、と思いますね。
――確かに漫画とイラストの表現方法は似ているようで違うかもしれませんね。
中島 そうだと思います。漫画表現って、映像に近いところもありつつ、デザイン的でもあって、コマ割りとかもうまく使いながら状況を見せていったりして。総合格闘技みたいなジャンルだなって思いますね。イラストもデザインも映画も舞台も、全部が入ってるから“できる人はすごいな”って思います。自分は“そっちの人じゃないな”って。
――ちなみに、漫画家さん以外で影響を受けた人っていらっしゃいますか?
中島 そうですね……これも漫画家になっちゃうかもしれないんですけど、メビウス(ジャン・ジロー)さんというフランスのバンドデシネ(漫画)の作家さんですね。色使いがめちゃくちゃかっこよくて、この方は好きですね。
自分の作品でも色はとても気にしている部分なので、色使いに縛られてない感じがして。“岩もピンクに塗っていいんだ!” って思いました。自分の目に写っているものを、そのまま描いてもいいんですけど、せっかく絵なんだから、グラフィックデザイン的に処理しても美しいんだな、というのを全編にわたって自由にやられてる感じがします。
色って絶対的なものじゃなくて、相対で見えるものなので「りんごだから絶対に赤く塗りましょう」じゃなくても、自分の表現したいことに必要であれば全然違う色を塗ってもいいんだっていう考え方を、この人の絵を見てできるようになりましたね。
――人物画が多い印象ですが、今後描いてみたい絵とか、挑戦してみたいジャンルってあったりしますか?
中島 モチーフ的なことで言えば、人物プラスアルファ、例えば風景とかですかね。あとは無機物ですね。今の作品は、人物のバストアップをがっつり掘り下げるということをやっているので、それを支えるプラスアルファのものを描いてみたいです。人の周りにあるものとかも含めた面白い絵が描けないかな、とは思ってますね。
人物って私のタッチや世界観を生かしやすいモチーフだと思うんですけど、それ以外の無機物にも“私らしさ”が出ればいいなと思います。今もあると思うんですが、自分でそれを自覚して、掴んで出していきたいと思っています。小説の挿絵なんかだと、人物だけじゃなくて状況や風景を描かないといけないので、そういう依頼が来ると、いい機会だなと思って楽しんで描いてますね。
――なるほど。個人的には中島さんの動物の絵も見てみたいですね。今年の年賀状のウサギの絵はめちゃくちゃかわいいと思います!
中島 ありがとうございます! 私もめっちゃ気に入ってます!
イラストは永遠に研究できるテーマ
――ところで、中島さんが最近ハマっていることはありますか?
中島 最近、お味噌汁作りにハマってるんです。今まで自炊をしてなかったので、料理に対する熱意とか全くなかったんですけど、コロナ禍になってから自炊する時間が増えまして。
私、絵のこととか、仕事のこととかをずっと考えちゃうタイプなんです。それがいいときはいいんですけど、あまりにも続くとボーっとしちゃうんです。お味噌汁を朝作って飲むと、それが一旦ストップするんですよね。意識的に何も考えない時間を作るのに、お味噌汁がすごくいいんですよ。
――最後に、今後の野望みたいなものってありますか?
中島 そうですね……。あまり野望みたいなものを考えるのが得意ではなくて。さっきお話したことに尽きてしまうんですが、絵って正解がないじゃないですか。答えがないからずっとできてると思うんですよね。他者から見たわかりやすい目標を設定してもいいんですけど、それが達成されたからといって自分の中にある欲求が満たされないような気がするんですよ。
自分にとってイラストは永遠に研究できるテーマなんです。先ほど言った、コミック的な絵と写実的な絵の中間、ジャンルを横断した絵を描いてみることも、実験みたいな感覚でやったことだったので。そんな感じで自分が興味のあるものをいろいろと掛け合わせて描いてみたら、まだ見たことないジャンルの絵ができるんじゃないかなと思ってるので、そういうことを繰り返していきたいですね。
――イラストの可能性を広げていくというか、ものすごく壮大な目標ですね。
中島 そうですね、人生かけてそれをやっていきたいです。
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(2023年5月現在)