こだわりを英語にするとSticking(スティッキング)。創作におけるスティッキングな部分を、新進気鋭のイラストレーターに聞いていく「イラストレーターのMy Sticking」。
今回は、温かみのある“かえる”のイラストがSNSを中心に話題を集めている、まんぷくアートスタジオのはちさんに、創作のうえでの「Sticking(こだわり)」を聞いてみました。
イラストを描き出したのは中学3年生
――この連載では、イラストレーターさんのこだわりについてお聞きしているのですが、まず驚いたのが、はちさんは中学生から本格的に絵を描き出した、とお聞きしたのですが……本当ですか?
まんぷくアートスタジオ はち(以下、はち) はい。中3のときに、友達に薦められて『コードギアス』というアニメにハマったんですが、ちょうど進路に迷ってた時期なんです。アニメの世界に行きたいなという気持ちが強くなって、ちょうど近くに美術部のある高校が1校あったので、そこを目指しました。
――それまでは絵を描かれていなかったんですか?
はち そうですね、特にやりたいことも考えておらず、普通に学校生活を営んでいました。
――例えば、絵を本格的にやっていないにしろ、それまでの学校生活で、家族や友達から絵がうまいとか言われたことはなかったんですか?
はち いえ、全然(笑)。
――それを知ったうえで、はちさんの作品を見ると、天才としか思えないんですが…!
はち いえいえ(笑)。本当に自分の原点は、コードギアスにハマって、それを真似して描いたことなんです。高校では美術部に入るんですけど、当然ながら周りは小さい頃から絵を描いている人ばかりで、みんな上手でした。あるときに、みんな人物とかキャラクターばかり描いているなって気づいて、じゃあ自分は背景を描いてみようと思ったんです。ちょうどその頃、アニメにも背景美術という職種があることを知って、いろいろ勉強し始めました。
――コードギアス以外に大きく影響を受けた作品はありますか?
はち 高校1年の夏頃だと思うんですけど、スタジオジブリの『となりのトトロ』の展覧会があって、そこに友達と2人で行ったんです。“どんな感じなんだろう”くらいの軽い気持ちだったんですが、ジブリの背景を間近で見て、思わず息を呑んでしまいまして。すごすぎる! と思いました。
――この連載でもスタジオジブリは定期的に名前が出る印象があります。
はち 実際に映像作品で使われていた背景が展示されてたんですけど、例えば、緑ひとつとっても瑞々しいところが、プロの技術はすごいなと思うし、何も知らない人が見ても引き込まれる。展覧会を見たあとに、男鹿和雄さんという、トトロをはじめとして、さまざまなジブリ作品の背景美術を担当された方がいらっしゃるんですけど、その方の画集をすぐに買って、水彩の勉強を始めました。背景美術をやりたいなと漠然と感じていた自分が、改めて背景美術の世界に行きたい! と思ったのは、この展覧会が大きいですね。
――その後、アニメ会社に入られたんですよね。
はち はい。大学卒業後に仕事で7年間、背景美術を担当していたのですが、キャラクターデザインとか、グッズ販売とか、いろいろなことにチャレンジしたい思いが強くなって、退社してイラストレーターとして活動していこうと決めました。
――この仕事に限らずだと思うのですが、会社という大きな組織を抜けて、個人で活動していくのに不安などはなかったのでしょうか?
はち そうですね。会社に勤めて、短編アニメの美術監督をやらせてもらった時期で、確かに収入的には安定していたんです。けれど、自分が30歳を迎えて、この先の人生を考えたときに、「人生1回きりだし、やりたいことをやろう」と思いました。ちょうど自分の抱えている仕事が一区切りしたタイミングだったのもありますね。
〇ホクレンアニメーション「from North Field_ episode2 リョータとポー 」 本編
――たしかに、人生一度きりって考えると、やりたいことをやらなきゃ、と思うかも……ですが、周りに相談したときに、「せっかく就職できたのに」と言われるっていうのも、あるあるな気がします。
はち あ、それで言うと、相談したりは全然しなかったですね(笑)。さすが親には伝えたんですけど、「やりたいことやればいいんじゃない?」という親だったので、それはすごく感謝してますね。
――そうだったんですね…!
はち SNSで「会社辞めました!」って伝えてはいたので、いざとなったらSNSで仕事を探そう、そのくらいの気持ちでいました。会社勤めをしながら、すでに“はち”としての活動は行っていて、そこのフォロワーにアニメ会社の方がいらっしゃったので、何かあれば声かけてくれるかもしれない、と勝手に思って気持ちが楽になってました(笑)。