若者を中心に飲み会離れが進む一方、コロナ禍もひと段落したこともあり「飲み二ケーション」が再評価されているとも言われる。だが、昔ながらの飲み会は百害あって一利なし。部下とのコミュニケーションを深めてチーム力を高めようと飲み会を開いても、今まで通りのやり方ではうまくいかないかもしれない。陸上自衛隊の幹部として現場でチームを指揮してきた小川清史氏が、飲み会で守るべき四つの条件を紹介します。
※本記事は、小川清史:著『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く 「作戦術」思考』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
これまでの「飲み会」ではチーム力は上がらない
フォロワーとのコミュニケーションに関して、ひとつ注意したいのが、飲み会など業務時間外のコミュニケーションです。
近年は若者が飲み会に参加したがらない傾向があるようで、さらにはコロナの影響もあって一時期に比べると職場の飲み会が減ったと言われています。一方で、いわゆる「飲みニケーション」が再評価されているとも言われ、それを推奨する企業があるという話も聞きます。
従来の日本型組織の飲み会では、上司による部下への強権的なコミュニケーションがしばしば行われてきました。「今日は無礼講だ」と言いながらまったく無礼講ではなく、「とにかく俺の話を聞け!」や「お前にそんなことを言われる筋合いはない」などといった上司の言葉が飛び交う“文化”は、現在でも少なからず日本の組織に残っていると思われます。
コロナ禍が続いたためもあり、正直なところ、今日の飲み会の実態がどのようなものなのかは私にはわかりません。ただひとつだけ確実に言えるのは、こうした昔ながらの飲み会は、自主積極的に動いていく組織を目指すチームビルディングをしていくうえでは、百害あって一利なしだということです。
昔ながらの飲み会には、上司が部下にマウントをとって若手を嫌がらせるための機能しかない、そう言っても過言ではありません。無礼講とは言いながらも、部下が上司に対して下手な発言をすると、そのあとの職場での人間関係にも影響があるため、部下は口をつぐみがちになり、自主積極性とはほど遠い心理状態で次の日の仕事に向かうことになります。
では、本当に無礼講で、上司も部下もみんなが楽しんで参加できているような飲み会だったらオッケーなのでしょうか?
もちろん、私としても“楽しい飲み会”自体を否定するつもりはありません。そうした飲み会ならチームの団結力も、ある程度は強化されることでしょう。
しかし、ひとつ注意していただきたいのは、そこで強化されるのは「疑似家族」や「疑似共同体」としての団結力であって、チームで仕事に取り組む機能を向上させる団結力ではない、ということです。
家族や共同体は、そもそも仕事をするために団結しているわけではありません。だから、疑似家族や疑似共同体の団結力を強化したところで、チームとして組織的に業務を遂行する機能は強化されません。つまり、“ただ楽しいだけの飲み会”もチームビルディングには有効ではないということです。
自主積極的に動くチーム作りに有効な飲み会の四カ条
「じゃあ、いったいどんな飲み会ならいいんだ?」という皆さんの声が聞こえてきそうですが、あくまでもチームビルディングの視点で言うなら、最低限、次の条件を満たしている必要があります。
- テーマや目的が設定されている
- 酒を飲み過ぎないようにして、主に意見交換や議論に務める
- 意見交換や議論の際には人格攻撃をしない(意見と人格を分けて議論する)
- 飲み会を開催すること自体が目的ではない
まず1.のテーマや目的というのは、飲み会を通じて実現したいことです。例えば、「個別最適の追求に走りがちな部下を、全体最適に寄与する方向に変える」という明確な目的があり、そのために職場より気楽に話しやすい業務外の飲み会で、リーダーが部下とコミュニケーションをはかろうとする場合などは、飲み会が有効なチームビルディングの手段になりえます。
2.は、そもそも酒を飲み過ぎるとコミュニケーションが成立しにくくなるので、そうならないよう努めようということです。あくまで酒は会話しやすくするためのツールです。酔っ払いをつくる会ではありません。
3.は読んで字のごとくなのですが、意外とこれをしっかりとできている日本人は少ない気がします。相手を誹謗中傷しないというのは当たり前のことですが、例えば部下から何かを指摘をされたときに、相手の立場・年下・経験不足などの属性をもとに「どの立場でものを言っているんだ」「部下のお前にそんなこと言われる筋合いはない」「年下のくせに」「そこまで言うなら、じゃあお前がやってみろよ」「そういうことはもっと仕事ができるようになってから言え」などと言い返してもいけないということです。
相手の主張と属性をしっかりと区別し、相手の主張に基づいて議論するということを、大半の日本人が苦手としています。相手の主張よりも属性に基づいて、反発したり、肯定したり、妄信したりする人が少なくありません。
4.は1に通じる内容であり、飲み会はあくまでもチームビルディングの“手段”であって、目的であってはならないという意味です(「そんなものは飲み会とは言えない!」という声も聞こえてきそうですが)。
なお、この飲み会は、仕事に通じるものであるため、会社による費用負担があれば、より仕事向上のための飲み会である、との意識が強まると思います。
巷で「飲みニケーション」が再評価されているからと言って、リーダーがテーマも目的もなく、ただ会社から与えられたポストと部下を使って飲み会を開いても、チーム力の向上にはまったく役に立たないでしょう。