参謀とは上司にとっての「もうひとつの脳」

これはあくまでも身近な例ですが、日々の業務でもこのように自発的に「提案(海上自衛隊ではこれを“リコメンド”といいます)」してくれる部下がいたら、課長はきっと楽なはずですし、部下のことを頼もしく感じるでしょう。

なぜなら、この部下は上司の意図から、その「行動の目的(出張の手配すべて)」を実現することはもちろん、「△△社との関係性」や「課長の身体的負担」といったこともわかっており、新たなビジネスチャンスが生まれることになるかもしれません。課長の感覚としては自分の体の外に、もうひとつの脳があるようなものです。

「上司にとってのもうひとつの脳」。これこそが参謀の最大の価値です。自律した人格として積極的に上司の行動や意思決定を補佐できるのが参謀なのです。

訓令は逐一命令を出すことと比較して、指示を出す側からすると負担が少なく、その分、指示を受ける側の負担が増える特徴があります。しかし、訓令を出す上司は単に自分がラクをしたいから訓令を使うわけではありません。訓令を積極的に使うメリットは次のようなものです。

訓令を受ける部下のメリット

  • 自ら考える習慣が身につく
  • 当事者意識が高まる
  • 視野が広がる・視座が上がる
  • 結果として成長が早まる
  • リコメンド(提案)ができるようになる

訓令を出す上司のメリット

  • こまごまとしたマネジメントの負担が減る
  • 部下の成長が早まる
  • 部下の「脳(アイデア・情報など)」をチームのために活用できる
  • 負担が減った分、自分の上司の訓令をこなす時間が生まれる
  • 視野が広がる・視座が上がる
  • 結果として自分の成長も早まる

これからの時代に必要とされる知的労働者

このように「訓令」はいいこと尽くめなのです。だとすれば、会社全体を訓令で回せばいいじゃないかと思いますが、現実問題、多くの上司は訓令を出したくても出せません。理由はわかりますね。

「『頼む』と言われても……何時の切符を買えばいいんですか? 通路側ですか窓側ですか? ちゃんと指示をいただけないと困るんですけど」

このように具体的な行動レベルまで号令されないと動けない「指示待ち人間」の部下が、日本にはあまりに多いからです(あなたも、そうなっていませんか?)。

かつては、読み書きそろばんができるだけで知的労働者として重宝された時代もありました。しかし、AIやロボット技術の進化で人間がそれをやる必要はありません。常に上司と同じ目線で考え、訓令で仕事をこなせる部下になることが、これからの時代、職場に必要とされる知的労働者なのでしょう。

▲これからの時代に必要とされる知的労働者 イメージ:itchaznong / PIXTA

参謀の語源は「謀(はかりごと)に参与する人」という意味で、“謀”とは計画のこと。現代においては「意思決定者の判断の精度を上げるための補佐役」という意味で使われています。

先ほど「もうひとつの脳」という例えを使いましたが、最終的な決断を下すのも、その決断の責任を取るのも、あくまでも上司です。参謀は上司がその決断に至るまでの舞台裏でひたすら汗をかくのが仕事です。

「それでは手柄がすべて上司にいってしまう」と思われる方もいるでしょうが、実際にそういうものです。参謀が仕事をするのは上司を支えるため。では、上司個人のためなのかといったら必ずしもそうではなく、最終的な目標は“組織としての大きな目標を達成する”こと。そこにやり甲斐や自分の使命を感じられないと、おそらく参謀として長続きしないでしょう。

「自分は平社員だから課長の悩み事なんて関係ない」と思うのではなく、「自分は組織の一員であり、課長の部下である。だから課長をサポートするのは自分の使命である」と思えるかどうかが、参謀になる第一歩です。