4月になり新生活が始まりました。会社でのポジションが上がったり、働く環境が変わたりすることで、心身に疲れを感じている人もいるのではないでしょうか? 腸と自律神経研究の第一人者・小林弘幸氏によると、「腸」が仕事のパフォーマンスにも関係していると言います。
※本記事は、小林弘幸:著『2週間でヤセる法則』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
メンタルトラブルも防ぐ「腸」の力
現代のビジネスパーソンが抱えるリスクに、うつ病、睡眠障害、パニック障害、強迫性障害(潔癖症)といったメンタルの疾患があります。
そのメカニズムは、今なおわからないことが多いのですが、やはり自律神経のバランスの崩れは大きな原因のひとつと考えられています。ことに、交感神経が優位になり過ぎることによって「セロトニン」の分泌が不足し、それが精神疾患のリスクをアップさせるという説は有力です。
セロトニンとは神経伝達物質のひとつで、「幸せホルモン」という別名でも知られているように、心を安らかにして理性的にする働きがあります。セロトニンが不足すると、キレやすくなることがわかっています。
ひとりの人間には、約10ミリグラムのセロトニンが存在していますが、その約90%が腸に集中し、約8%が血液中にあります。そして、脳の中枢神経にあるのは残りの約2%にすぎませんが、それがメンタルに直接関係していると言われています。
脳にあるセロトニンは脳で作られますが、腸の活動とも密接に関係しています。例えば、セロトニンの材料となるトリプトファンは、腸がタンパク質を分解することで作られます。脳のセロトニンは、それを活用しているわけです。
また、脳でセロトニンを作るためには、腸内細菌の力を借りなくてはなりません。トリプトファンからセロトニンを合成するためには、材料としてさまざまなビタミン類が必要となりますが、それらは腸内細菌が作り出しています。ビタミンは生存していくために不可欠な物質ですが、人間は体内でビタミンを合成できません。共生関係にある腸内細菌が、ビタミンBやビタミンKなどを合成してくれるのです。
つまり、腸内細菌が活発に活動できるよう腸内環境を整えることでセロトニン不足を防ぐことができ、メンタルのトラブルの予防にもつながるということです。
責任感が強く、完璧主義の人が、精神のバランスを崩しやすい傾向にありますが、それは「脳で考え過ぎている」ということがあるように思えます。
大らかな気持ちで、腸に優しい生き方をするためには、人知れず働いてくれている腸内の雑多な細菌たちに思いを馳せることも必要なのではないでしょうか。
ビジネスパーソンを悩ませる腸トラブル
最近、「過敏性腸症候群」(IBS)に悩むビジネスパーソンが急増しています。これは、ストレスによって引き起こされる便秘や下痢、腹痛などの症状をいいます。
大きく分類すると、(1)下痢型、(2)便秘型、(3)下痢と便秘を交互に繰り返す交替型の3つがあります。「ストレス」「メンタル」「排便トラブル」という共通点はありますが、発症のパターンはそれぞれ微妙に違います。
男性に多いのは下痢型です。大事なプレゼンテーションの前など、プレッシャーを感じるとお腹が下ってしまったり、通勤電車の中で腹痛になって途中下車しトイレに駆け込んだりと、社会生活に支障をきたすレベルになってしまうこともあります。
女性に多い便秘型でも、突然の腹痛に悩まされたり、排便がなく苦しい思いをしたりします。交替型の場合は、プレッシャーを感じると便秘になり、副交感神経が働き出すと下痢になるということを繰り返しますので、非常に苦しい状態が続きます。
いずれのケースでも、もともとのストレスの原因だけでなく、「またお腹が痛くなるかもしれない」という自分の健康状態への心配が重なり、不安が不安を呼ぶ悪循環になってしまいがちで、とても厄介です。過敏性腸症候群は精神的疾患――例えば、うつ病や睡眠障害などの入り口になることもあるため注意が必要です。
昔からストレスによって下痢や便秘が起きやすくなることは知られていましたが、現在では、一方通行のものではないと考えられています。つまり、腸内環境の悪化が先にあり、それが精神に影響を与え、悪循環に入っていくケースもあり得るのです。
カナダ・マックマスター大学のステファン・コリンズ教授が大変興味深い研究発表をしていて、「行動的なマウス」と「臆病なマウス」の腸内細菌をお互いに入れ替えたところ、両者の性格が入れ替わったというのです。
また、オランダの研究グループは、ヒトの場合でも腸内細菌を入れ替えることで、下痢を起こす感染症患者の90%に改善効果が見られたという発表をしています。
こうした実験結果から、メンタルが原因で腸のトラブルが起こっていると、一方的に決めつけられなくなりました。逆に、腸内フローラが人間の精神に影響を与えているという可能性も考慮する必要が出てきたのです。