放送作家へと導いた恩師の影響

――子ども向けのアニメから深夜のバラエティまで、さまざまなジャンルの番組を担当されてますが、竹村さんが番組を作るうえでの軸にしていることはありますか?

竹村 軸がない、というのが放送作家としての軸だと思います。番組は演出家のもので、僕がよく言うのは「放送作家はディレクターや演出家の愛人」。いろんな演出家がいるので、この演出家にはこういう顔する、あの演出家はこういうの好きだからこういう顔をする、合わせるのが仕事だから、“俺はこうしたいんだ”っていうのを放送作家が持ち過ぎてると邪魔なんです。もちろん自分がやりたいことは持っていてもいいんですけど、いつでも手放せる柔軟性が大事だと思います。

――放送作家といっても、番組ごとで違う仕事をしているということですか?

竹村 そうですね。ここではナレーションだけ書くとか、この番組は企画だけ出せばいいとか、ここでは会議でしゃべってるだけとか。僕自身も『アイラブみー』では脚本を書いてますし、番組によって役割は違います。でも、それが僕にはめちゃくちゃ合っていたので楽しいです。

落ち着きがないし飽きっぽいので、ひとつのことに集中してやるより、広く浅く節操なくやりたいタイプ。だから「やりたかった仕事に就けて幸せですね」ってよく言いますけど、一番幸せなのは「やりたかった職業に就けて、しかもその職業が自分に向いていたとき」だと思います。逆に、夢が叶ったのに向いてなかったときの悲劇もあるかと。これは運でしかないですけどね。

――たしかに、自分に向いているというのも仕事を続けるために大事ですよね。

竹村 自分では気づいてなかったんですけど、小・中学校の同級生からは「竹ちゃん、小学校時代からやってること変わらないね」って言われます。当時から学校行事の企画を考えていたし、学芸会の台本を書いてたりしてました。だから、昔から自然とそういう役割を担ってたみたいです。

――放送作家になりたいと思ったのも、学生時代の成功体験が潜在意識としてあったんでしょうか。

竹村 それはあると思います。小学校1~3年生のときの担任だった有田先生は、全国から先生が授業を見に来る「先生参観」があるほどの授業名人だったんです。「はてな帳」という、日常生活で“?(はてな)”と思ったことを書く作文を毎日、課題として出してたんですけど、「先生参観」のときに僕のを読んでくれたんです。そしたら、見に来ていた先生たちがすごく笑ってくれて。その光景は今でも覚えてます。自分の書いたことで人が笑う気持ち良さを知りました。

――その先生と出会えたことが竹村さんにとっては大きかった。

竹村 そうですね。有田先生の授業が抜群に面白かったのは、要は伝え方が面白かったんだなあと。放送作家の仕事は企画力もそうですが、いかにわかりやすく噛み砕くかの「咀嚼力」も大事だと思っているので、それをまさに体現されていたのが有田先生だった。

僕が今、放送作家になっているのは、有田先生が僕の得意なことに気づいて伸ばしてくれたから。本当の意味での恩師です。小学校の先生の最大の役目は、教科を教えることじゃなくて、その子どもも親も気づいていない、その子のいいところを見つけることだと思います。『アイラブみー』でも、それぞれの個性を大切にしようというメッセージがあるんですけど、有田先生もそれを伝えてくれていたんじゃないかと。

▲「学校の授業をおもしろくしたい」という夢を教えてくれた

――この先、放送作家として挑戦してみたいことはありますか。

竹村 世の中の小難しいことを片っ端から噛み砕いていきたい。特に学校の授業をおもしろくしたいんですよ。今、Eテレで『植物に学ぶ生存戦略 話す人・山田孝之』っていう植物の番組をやってるんですけど、TwitterのDMで「ウチの息子が学校でおもしろい映像を見たと言ってたので、よく話を聞いたら、この番組でした」とか連絡が来たりして。学校の教材で使われてたっていうのがめっちゃうれしかったです。

――「学校の授業をおもしろくしたい」というのは、竹村さんのお子さんの存在も大きいですか?

竹村 そうですね。たとえば学校の授業って「Q.1600年に江戸幕府を開いたのは誰?」「A.徳川家康」みたいに教えるだけじゃないですか。それよりも子どもたちに「徳川家康」が答えになる問題を3つ作らせたほうが知識が広がると思うんですよ。クイズ作りって楽しいし、工夫次第で面白くなる余地がまだまだあると思っています。

子どもと一緒に大人も学べる絵本

――自分の心と体を知り、大切にすることを学べる『アイラブみー』が、絵本になりましたね。改めて、この番組はどんな番組ですか?

竹村 僕も脚本を書きながら、毎回、学ばせてもらってる番組です。NHKのプロデューサーの方や監修の先生がテーマをくれて、それを元にしてストーリーを広げているんですけど、そこで僕もイチから学んでます。

番組が始まるときに、「自分を大切にする」という番組のテーマを聞いたんですけど、「自分を大切にする」って、そういえばこれまで教わってこなかったなってハッとしたんです。世のため人のため、みたいに他者を大切にすることは習うんですけど、自分を大切にしましょうって、どうしたらいいんだろうって。

「自分を大切にする」ってことを考えたときに、浮かぶ言葉は“ナルシスト”とか“自己中”とかネガティブな言葉ばっかりなんですよ。「自分を大切にする」ことが前向きに捉えられてない。もちろん、思いやりとか自己犠牲の精神も大事なんですけど、なにより一番大事な「自分を大切にする」ことが疎かになってるんじゃないかって。

『アイラブみー』を監修してくださっている教育学の汐見稔幸先生が「自分を大切にするためには、まずは自分を知ること」だとおっしゃっていて。自分のダメなところを知ると他人のダメなところも許せるし、自分のいいところを知ると他人のいいところも見つけられる。ここ数年で「自己肯定感」って言葉が急に出てきましたけど、どう育めばいいのかわからず右往左往してる大人たちにこそ見てほしいです。たくさんの学びと気づきがあると思います。

――番組のファンはもちろん、この絵本を機に『アイラブみー』を知る読者もいると思います。どのように楽しんでほしいですか。

竹村 絵本は動かないし、喋らないし、コンテンツとしては不完全だと思うんですけど、そこが絵本の良さだと思います。足りない分を想像力で補ったり、親子の会話で埋めることができる。わからなければ途中で立ち止まれるし、戻ってもいい。それぞれのペースでコミュニケーションを取りながら読んでもらいたいです。あとは満島さんのように、大人が楽しそうに読むのが大事だと思います。


プロフィール
 
竹村 武司(たけむら・たけし)
放送作家。東京都出身。「光秀/土方/義経/信長/秀吉のスマホ」「山田孝之の東京都北区赤羽」「魔改造の夜」など、アニメーションからドラマ、バラエティまで多数手がける。「アイラブみー」の脚本を担う。Twitter:@takemuramura