『半沢直樹』をはじめ、日曜劇場での実直な演技が光る入江甚儀。直近ではNETFLIXシリーズ『THE DAYS』で好演、社会派ドラマになくてはならない存在となっている。一方、恵まれた体躯を活かし、ダイナミックな演技をする市川知宏。『仮面ライダーセイバー』の印象が強いが、最近では髭を蓄え、『勝利の方程式』『テイオーの長い休日』など、年齢とともに男くさい役どころも増えてきた。

意外なことに、実際の印象は入江甚儀が明るい熱血漢タイプで、市川知宏はきめ細やかな心配りの繊細派。2023年6月30日から東京芸術劇場シアターウエストで共演する舞台『これだけはわかっている ~Things I know to be true~』の役柄こそ、彼らの本質に合っているのかも知れない。

市川が演じるのは家族に秘密を抱え、人知れず思い悩むIT系エンジニアの長男マーク。一方、入江は勝気さゆえに暴走してしまう金融関係に勤める次男のベンに扮する。市川は公演初日が俳優デビュー15年目、入江はデビュー15周年の真っ最中。「じんとも」コンビとして知られる二人の付き合いも15年。ともに30代となった強い絆の二人が舞台にかける思い、これからの俳優業について、赤裸々に語る。

▲市川知宏/入江甚儀【Crunch-special-intervieW】 撮影 : 浦田大作

新作舞台を演じるうえで家族について改めて考えた

――舞台『これだけはわかっている ~Things I know to be true~』の稽古中だそうですね。

入江 現在、稽古は中盤に差し掛かっています。だんだん作品の輪郭が見えてきて、とても素晴らしい戯曲を具現化しつつあります

市川 見えてきたぶん、もっとやりようがあるんじゃないかなと、稽古に入る前より、焦りとまではいかないんですが、“より良いシーンにしたい”という思いが強くなってきている段階です。もっと時間が欲しいとも思いますが、作品全体がいい方向に向かっているのは間違いないです。今、区切ってやっているシーンを全部つなげたとき、どういう感じになるのか、今後が楽しみです

――傑作戯曲だけに、演じる側には大きな挑戦ですね。

入江 いろんな人に見ていただきたいです。家族って生まれながらにしての運命みたいなものだと思うんです。物心ついたときから、いや、自分の記憶にないときからすでに始まっていて、誰にでも存在しているもの。人がいればいるだけ、それぞれの形がある。だから、どんな方がこの作品を見ても、共感できると思うし、苦しい思いをしたとしても、救いもあると信じています。

4兄弟分の視点が描かれているから、さまざまな刺さり方をするでしょうし、親御さん世代の方にも見どころがあります。出会って、恋愛して、結婚して、子どもを産んで、育て上げて、子どもたちが出ていって……。そんなふうに夫婦の関係がどんどん変わっていく。

子どもが巣立ってからの夫婦の関係は、好きという思いだけでは一緒に歩んでいけない。夫婦ならではの良さ、ジレンマも描かれます。僕はまだ、子どもを育てたこともないですけど、これからこういう悩み方、あるいは幸せの感じ方をするんだろうなって思うところがありました。

市川 台本は1年の移り変わりを通して、家族の変化、子どもが親を超える瞬間などが描かれます。兄弟それぞれのエピソードがオムニバス風の形式で描かれていて、すんなり読めたので、きっと観客の方にも見やすいのではないでしょうか。シンプルに心に刺さる、無駄がない脚本だと思います

入江 LGBTQとか、自分の性認識の悩みなど、今の時代に合っているテーマも含まれています。いざ両親に伝えたときに、どんな反応をして、どういう衝突の仕方をして、どうやって解消していくのか。家族を描いていながら、扱っていることは世の中全体のことでもあったりするので、小さなエリアで大きなことをしているなと思います(笑)。

――演じるキャラクターについて教えてください。

入江 僕が演じるベンは次男、弟の役で、自分に近からず遠からず、です。彼ら4兄弟の育った家庭は、良い意味でも悪い意味でもすごく平凡です。裕福でもないけど、貧乏でもない。でも、親が与えるべきものはしっかり与えられて育ってきた。だけど。僕が思うに、ベンは周りと比較してしまって、コンプレックスを抱いています。

僕は大学には行ってないですが、大学って、さまざまなところから人が集まってくるので、家庭環境の差を感じる場所だと思うんです。高校なら制服があって、それぞれの個性を出しづらいと思うんですけど、大学に行くと着ているものから差が出てくる。今だと、SNSが普及しているので、誰がどこで何をしているのかがわかって、自分と他人を比べて、嫉妬を感じることも多いと思います。

それがきっかけで、若さゆえに自分の身の丈に合ってない行動に出て、傷ついたりしやすい。ベンは、まさにそんな時期にあります。それは僕も実際に感じたコンプレックスでもあります。小さなコミュニティではチヤホヤされていたけれど、いざ芸能界に入ってみると、飛び抜けたスキルや容姿を持っている人たちの集まりで、それまでの自分は、いかに井の中の蛙であったか思い知らされる。結局、ベンは無茶な行動をしたせいで、綻びが出て、家族と衝突してしまいます。

僕にも経験があります。いい服を着ている人に憧れて、これまで使ったことのない額を出して服を買い、いざ自分で着てみたはいいが、全く似合ってない……。まさにベンです。自分がどこにいるのか、何をしているのか、わかっていない、地に足のついてないような若者。それでも彼なりに悩んでいる。そんな役だと思います。

市川 僕の演じるマークは長男で、やっぱり上の子だけに両親からの期待が大きかったりすると思うんです。けれど、マークには抱えている秘密があり、そのせいで両親の期待に応えられなくて、引け目を感じています。どこか家族を俯瞰的に見てしまう人物でもあります。

僕自身は次男で、親からのプレッシャーもさほどなく、自由にやらせてもらってきたんですけど、家族を俯瞰で見ようとしているマークの心理はわかるような気がします。見えているかどうかはわからないけれど、僕も俯瞰で見ていたいタイプなので、そこがすごく自分と似ていると思います。僕には兄がいますが、自由な気質で、どちらかというと自分のほうが長男っぽいし、通じるものがあります。

入江 マークは幼い頃から自分のことに関して悩み続けた人物だから、どこか冷めている部分があるよね。親からしてみたら、何を考えているかわからない。そこも近いように思います。

――おふたりは、2018年にも舞台『大きな虹のあとで~不動四兄弟~』でも兄弟を演じていますね。

市川 お互いに変な遠慮や気遣いがないというのは、家族に近いものがあります。そういった変な障害がないよね。

入江 楽だよね。稽古場で家族っていう関係性を、みんなで作っていかなくちゃいけない意識がそれぞれにあるけれど、僕らには距離を縮める、溝を埋める必要性がないんです。

市川 4兄弟のうち2人がこういう状態だと、空気感的に他の2人も混ざって、兄弟感を出しやすいのかなと思いました。

入江 そういう部分って描かれていなくても、わかる人には伝わってしまうと思うので、前から関係性があってよかったなって思います。実は今回、作品上、会話する場面はそんなに描かれていなくて、さほど絡みはないんです。あ、こんなことを言ってしまって、集客が減ってしまうと困るんですけど(笑)。