全てが曝け出される舞台ならではの醍醐味

――おふたりは映像の仕事が中心ですが、舞台にもコンスタントに出ていますね。舞台はどんなものですか?

市川 スタンスとしての違いはあまりないんですけど、やってみて思うのは舞台のほうが試されている気がしています。映像は瞬発力が大事で、演出に対して、その都度、臨機応変に対応することが求められるんですけど、舞台は1ヶ月間、やってきたものが本番に出る。

言い訳もきかないし、その場で起こった反応が結果として、お客さんに直に届く。積み重ねてきたものをすごく試されている感じがあります。それから、1つの役に対して、約1ヶ月間、深堀していく作業は、映像をやっていくうえでも、絶対に糧になる。新しい自分の表現や役へのアプローチを学習する貴重な機会だと思っています。

▲市川知宏 撮影 : 浦田大作 

入江 舞台はいざ本番が始まってしまったら、舞台上に立っているのは僕たちだけで、何が起こるかは全部、自分たちに任されます。映像は撮り直しもできるし、カット割りで編集もできるから、言い方が合っているかわからないけど、加工していただけて、作品や役を、より良くしてもらえることができる。

でも、舞台は無加工というか、今までやってきたものが全てさらけ出されてしまう。映像はコントロールされているけれど、舞台はお客さんが、舞台上の何を見たいかを選ぶこともできるから、こちら側も常にそういう意識を持っていなくちゃいけない。1ヶ月間稽古をしても、毎回、起こっていることは微妙に違うわけで、そのとき舞台上で何が起こっているのかを汲み取って、芝居が変わっていくのが醍醐味でもあります。

自分とその場にいる役者の方たちの力で、どうにかしていかなくちゃいけないから、力のつくものだと思います。稽古を重ねていくと、“もしかしたら、このシーンって別の解釈の仕方もあるな”“この台詞は思っていたのとは違う意味だったのかもしれない”という新しい発見が生まれてくるんです。舞台をやると、もっと映像にも時間をかけるべきだと、還元される部分もあります。

▲入江甚儀 撮影 : 浦田大作 

市川 舞台が好きな理由はもう一つあって、他の役者さんがどういうふうに役へのアプローチをしているのかとか、人のプロセスが見られるんです。映像の現場だと、どういう過程で役を演じているのか見えづらいことが多く、聞けば教えていただけるかもしれないですけど……。舞台は先輩などが、どういうふうに考えて、どうなっていったのか、そういう変化を間近で見られて、すごくありがたいし、楽しいと感じます。

――今回、お互いの芝居を間近に見て、どう感じましたか。

市川 今回の甚儀の役は振り切れるし、やりやすいんじゃないかなと思いますね。僕から見たら、十八番とまでは言わないけど、以前に共演した舞台でも、系統として近いようなことをやっていた気がしています。

入江 同じではないけどね(笑)。どちらかというと、その場を賑やかすような系統ではあるよね。

市川 だから、のびのびしているなって感じ。もちろん、いろいろ考えているんでしょうけど。

入江 僕は市川くんを見て、“悩んでいるなあ”と感じます。僕たち役者が演じるうえで大事にしなくちゃいけないことは、今、自分が演じている役柄の当事者がいるわけで。僕たちは演技をしているかもしれないけど、実際にそういう境遇の人もいるわけです。そういった方たちの気持ちも考えなくちゃいけない。それは役者の責任でもあります。

今回、市川くんの役柄は特にその責任が大きいと思うんです。だから、悩んでいるんだろうなと思いますし、わかりやすくデフォルメして演じるのか、方法もいろいろあるからこそ迷いもあると思います。たぶん本人が一番自覚していると思いますけど、責任の大きな役ですから、日々、向き合っているのだと思います。

市川 そもそも、けっこう考えるし、悩んでしまうタイプなので、特に舞台だとそうなります。

入江 そういう悩んでしまう性質こそ、市川くんとマークが合っているところだと思います。舞台って悩ましいことに、僕たちが理解し合いながら、物語を運んでいったところで、お客さんに伝わっていなかったら意味がないんです。だから、舞台上の目の前の人と演技をしながら、どこかで客席に向けても発信しなくちゃいけない。

そういうエネルギーが必要なんですね。決して、自己満足で終わってはいけない。映像は僕たちの芝居を覗いてもらうものなので、出しにいきすぎると引かれてしまうこともある。だけど舞台の場合は、お客さんを引きつけなくちゃいけないから、やらなさすぎると伝わらないし、出す意識がないと眠い芝居になってしまう。そのバランスが難しい。

市川 それって、舞台をやってみないとわからないものだと思う。

入江 そうだね。舞台って何をしても意味が出ちゃうからね。例えば、映像でアップで切り取ってもらっているときに、手足を動かしていても映っていなければ関係ないけれど、舞台上では手足を動かしたら、そこに意味が生まれてしまう。全部が全部、芝居になり次につながっていくのは面白いし勉強にもなりますが、それはやってみないとわからないことだと思います。今回、末っ子役の山口まゆさんは初舞台で大役。すごく頑張っていて、成長を間近で見ていて面白いです。

市川 そう、変化が早くて驚かされます。