「残留物」の土で育ったカイワレ

――「食べないとどうなる? 断食道場体験」「“事故物件の寝食べ現象”を専門機関で検査」「死を招くオムライス、集まってくる大根」など、『恐い食べ物』にはタイトルから想像できない、でも興味深い話がたくさん収録されています。

タニシ 松原タニシが“タニシ”を食べに行くとか。タニシは食べられるところがあまりなくて苦労しました。話のひとつひとつは長かったり短かかったりするんですけど、読んだ方には、どの話が面白かったかお聞きしたいですね。

――冒頭でお話されていた事故物件の「土」で、カイワレを育てて食べたと書かれていましたよね。すごくインパクトが大きかったので、最後にその話についてお聞きできますか。

タニシ はい。仕事で家を空けることが多くて世話が難しかったので、そのカイワレは編集さんに代理で育てていただいたんですけど……。

▲カイワレは二見書房の屋上で育てていたそうだ…

――ええっ……私だったらちょっとイヤかも……。(編集担当者に)この試みについてタニシさんから聞いたとき、率直にどう思われましたか。

編集担当 編集者としては“やってほしい”と思いつつ、その土を目の前にするとやっぱり怖くて、植木鉢を持つこともできなかったです。でも、タニシさんといると「じゃあなんで私はこの土を怖いと感じるんだろう?」「あの土は触れるのに、この土が触れないのはどうして?」と、自分自身を問いたくなるんですよね。

――なるほど。タニシさんにカイワレを託されたことで、問いを投げられる形になったんですね。

タニシ 僕、たぶんこうやって無意識に、人に問いを投げちゃってるんですね(笑)。巻き込んでしまってるなあ。

編集担当 事故物件も内心は本当に怖くて怖くて。でもタニシさんを見ると、平然としていらっしゃる様子なので「自分はこの場所がなんでこんなに怖いんだろう」という哲学的な問いをいつも突きつけられます。

タニシ そっか、そんなつもりなかった……僕という人間が一番怖いじゃないですか(笑)。

(取材:菅原史稀)


プロフィール
 
松原 タニシ(まつばら・たにし)
1982年4月28日生まれ。兵庫県神戸市出身。松竹芸能所属のピン芸人。現在は「事故物件住みます芸人」として活動。2012年よりテレビ番組「北野誠のおまえら行くな。」(エンタメ~テレ)の企画により大阪で事故物件に住みはじめ、これまでに大阪、千葉、東京、沖縄、香川など17軒の事故物件に住む。事故物件で起きる不思議な話を中心に怪談イベントや怪談企画の番組など多数出演する。ラジオ関西「松原タニシの生きる」、MBSラジオ「松原タニシの恐味津々」、CBCラジオ「北野誠のズバリ」などレギュラー出演中。著書に『事故物件怪談 恐い間取り』『異界探訪記 恐い旅』『事故物件怪談 恐い間取り2』『死る旅』『事故物件怪談 恐い間取り3』(以上、二見書房)、コミックの企画・原案に『ゼロからはじめる事故物件生活』(漫画:奥香織 / 小学館)、『ボクんち事故物件』(漫画:宮本ぐみ / 竹書房)がある。2020年8月には著書『事故物件怪談 恐い間取り』を原作とした映画『事故物件 恐い間取り』(配給 松竹)が公開。X(旧Twitter):@tanishisuki、YouTube:松原タニシ