唐突とも言えるアメフト挑戦がプラスになった

ところで、時間軸を戻すと、2015年までの伏線はもう一つあった。じつは2012年に1シーズン限定で、山田はアメフトに挑戦しているのだ。パナソニックに所属しながら、アメフトの社会人チームでプレーし公式戦にも出場している。

それまでアメフト経験は無かったが、子どものような無邪気さで「面白そうだったから」とやってみた。そんな寄り道をして、あの鬼軍曹エディーは怒らなかったのか。

「エディーさんには相談していました。厳しい人ですし、ダメだと言われるかなと思ったんですが、“お前がラグビーを真剣にやるなら何やってもいい”っておっしゃってくださったんで、そこにはすごく感謝してますね」

ラグビーとアメフト、二つは全く違うスポーツだったが、結果的にアメフト経験はラグビーに大いにプラスになった。

「面白い話でいうと、アメフトでは防具を付けていたので、ラグビーでは軽く走れました(笑)。あとは、焦らずディフェンスのギャップを見つける駆け引きや、アメフト特有の身のこなしがラグビーにつながりましたね」

ワールドカップでの“忍者トライ”。あの華麗なターンもアメフト由来だというから驚きだ。

これまで前例の無いキャリアをひた走ってきた。ふと気になったのが「ロールモデル」はいたのか、ということ。「野茂英雄さん、三浦知良さん、中田英寿さん……」そんな名前が聞かれたように、他競技で海外挑戦したレジェンドを意識していたのかもしれない。

ラグビー界には単純に先人がいなかった。ただ、選手としての振る舞いを学んだ「グラウンド上でのロールモデル」はいる。

「霜村誠一さんというパナソニック時代のキャプテンですね。どんなときでも自分(霜村さん)のせいにしてくれる人なんですよ。例えば、霜村さんからのパスは悪くないのに、僕が落としてしまったときに、“ごめんごめん”と謝ってくれる。いつも落ち着いていた方でした。そうやってくださったことを、自分もできればいいなと思っています」

▲アメフト挑戦がプラスになったと語る 写真提供:九州電力キューデンヴォルテクス

「グローバル」から「グローカル」へ

山田は、2022年に故郷である九州に戻った。「グローバル」から「グローカル」に意識が変わったのだ。言葉の定義は簡単ではないが「グローバル」を目指して、そこで実際に戦って得たものを「ローカル」に還元していく――。そう表現すればいいだろうか。

「ちょっと大げさですけど。僕みたいな存在が九州に帰って“グローバルな世界っていいよ”ということを伝えていく。それがキッカケで、いろいろなところで活躍してくれるチビっ子たちが増えてほしいなという思いもあります。まあ別に、今は海外の情報なんてすぐ入手できるんですけど、YouTubeなどとはまた違ったものを伝えられたら」

現在プロ選手として所属する九州電力(キューデンヴォルテクス)には、かつてない一体感を感じるという。

「会社としての一体感、九州の一体感は自分のアスリート歴のなかでは、すごく新鮮だし、それを大切にしていきたいなと思います」

山田は今年38歳となったが、昨シーズンも要所でトライを奪うなど、いぶし銀の活躍を見せている。「33、4からまた伸びを感じているんですよ」と語る。年齢を重ねるにつれ単純な身体能力は落ちたかもしれないが、周りとの連携がうまくなってきた。

「みんなのいいプレイも引き出したいし、逆に引き出してもらわないと僕自身も走れないので。そういった点ではうまくコミュニケーションが取れていますね。より洗練されてきたという感覚はあります」

▲現在は「グローカル」への意識が強い 写真提供:九州電力キューデンヴォルテクス

楕円球とは気づけば、30年超の付き合いだ。ここまで続けてきたのは、やはりラグビーに大きな魅力を感じているからだろう。あらためてラグビーの魅力とは、という質問を最後にぶつけてみた。

「世界中に友達ができることかな。ヨーロッパでもアメリカでも、どこでもいいんですけど、やっぱりグローバルスポーツなのでラグビーというワードを出すと、それだけで距離が縮まるんですよね。僕のように高いレベルでプレーしていなくても、観戦するのが好きな人でも同じことが起きると思うんです。

価値観を共有する仲間が世界にできれば、自分の人生は豊かになる。すごくいいスポーツだなと思います。新しい自分にも出会えるし、一回り違う世代の仲間にも出会える。ラグビーにはまだまだ飽きていないですよ」

(取材:北野哲)


プロフィール
 
山田 章仁(やまだ・あきひと)
出身地:福岡県
生年月日:1985年7月26日
小倉高校→慶應義塾大学
▼国内ラグビーリーグ経歴
2008年- ホンダヒート
2010年- 三洋電機ワイルドナイツ(パナソニックワイルドナイツ)
2019年- NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安
2022年-現在 九州電力キューデンヴォルテクス
2012-13年、2017-18年 トライ王獲得
▼その他の主な経歴
2012年 ノジマ相模原ライズ(アメリカンフットボール)
2015年 フォース(スーパーラグビー・AUSチーム)
2015年 ラグビーワールドカップ日本代表(日本代表キャップ:25)
※代表デビューは2012年
2016年 サンウルブズ(スーパーラグビー・日本チーム)の中心メンバー