お笑いコンビ・インパルスの板倉俊之が、初のエッセイ集『屋上とライフル』(飛鳥新社)を8月1日に上梓した。これまでコミック化もされた『トリガー』や『蟻地獄』など、発表する書籍は小説のイメージが強かった板倉が、初めてエッセイ集を発表した理由とは? ニュースクランチ編集部がインタビューで聞いた。

▲板倉俊之【WANI BOOKS-NewsCrunch-Interview】

現実の話を面白いように変えることはしない

――これまで、フィクションの小説は『トリガー』『蟻地獄』と書かれてきてますが、今回は初のエッセイということで、以前に「自分の人生は自伝にするほど面白くないから、フィクションを書いている」と話されていたと思うのですが、エッセイを書くきっかけがあったのでしょうか?

板倉 フィクションを書いていたのは、当時『ホームレス中学生』とか『ドロップ』とか、芸人が本を書くといえば自伝を書くのが主流だったから、その方々と勝負できるような人生は歩んでないしな、と思っていたからですね。今回のエッセイは、noteで書いていたものをまとめたもので、自発的に始めたことなんです。文章で面白いことって表現できるのかな? と思ったのがきっかけですね。

――なるほど、書籍化に向けて動き出したのはいつ頃だったのでしょうか?

板倉 収録されている話の半分くらい書いたところでお話をいただきました。ただ、そこからダラダラしちゃったので…(笑)。

――(笑)。過去のインタビューでも、「よくストイックに見られがちだけど、全然そうじゃない」とおっしゃってましたよね。

板倉 そうなんですよ。あと、ネタも小説も自分の中での判断基準があって、その基準まで達したら終われるんですけど、エッセイの場合、自分の中に判断基準がなかったんですよね。だから、向き合おうと思ったら延々と向き合えちゃうんです。

――この本を読んで“いいな”と思ったのが、板倉さんの文章は全く盛らずに書いているように思えるところなんです。芸人さんのトークは多少盛られるイメージがあるのですが、それが全く感じられない。お父さまとの「二人乗りをしない」という約束を守るために、自分はバイクにまたがり、彼女を後ろから走らせていた弟さんのエピソードを書いた「男の約束」も、いくらでも話を盛ろうと思えば盛れたと思うんですよね。

板倉 その感想はうれしいですね。たしかに、盛っては書いてないですね。小説だったら自分の面白いように変えられるんですけど、現実の話でそれをやっちゃうと駄目なんじゃないかと思っていて。だから、面白い出来事待ちのときは、なかなか書き進まない。

――「夏休み終了間際」や「栗は果物 メロンは野菜」の話を読んで、時の流れやタイミングというのをすごく大事にされる方なんだとも思いました。

板倉 そうですね。例えば、カップルや夫婦を見ていても、すごく仲の良いときはうれしいことでも、仲が悪くなるとイヤなことってありますよね。そういうのって不思議だなと、小さい頃から思ってました。

――板倉さんって記憶力がすごいですよね、こんなに鮮明に覚えているなんて。

板倉 定期的に弟と話すんですよ。「あんなことあったよな」って。先ほど言っていただいた「男の約束」とかもそうですね。

――ちょっと趣向が違う「イチゴ狩りという表現はひどすぎやしないか」などの「in my opinion」シリーズ。これは板倉さんのピンのネタに近しい気がしました。

板倉 ああいうのは、コロナ禍でライブができないときに、ライブができないんだったら、文章で出しちゃおうかな、と思って書いたものです。

――一番お気に入りの話はありますか? やはり、タイトルにもなっている『屋上とライフル』でしょうか?

板倉 まずタイトルの話をすると、表紙用に写真をたくさん撮っていただいたんですが、その時点ではタイトルが決まってなかったんです。正直、これらのエッセイを全てまとめるようなタイトルが思い浮かばなくて。どうしようかな、と考えているときに「エッセイのなかの1作を、そのままタイトルにする方もいますよ」と編集者さんから教えてもらったんです。

「『屋上とライフル』って板倉さんっぽいし、そのままタイトルにしてもいいんじゃないですか?」と言われて、じゃあそれで!って感じでした。

――そうだったんですね。

板倉 お気に入りの話でいうと、noteにあげていたものなんですが、自分は面白いと思って書いたけど、意外と反響が少なかったのが「ちびっこ戦争―勝ちと勝ちー」ですかね。これは喧嘩をふっかけられてボコられたんですが、相手が上級生だったから“あいつ、やるなあ”みたいに評価が上がったけど、下級生だったら俺の評価は下がってたな、危なかった!って話なんですけどね。

――面白いですよね(笑)。

板倉 僕はそこが面白いと思ったから書いたんですけど、なかなか伝わりづらかったみたいですね(笑)。

▲エッセイの執筆はコロナ禍だったことも大きな理由だった