吉本興業に所属するお笑い芸人・ひろたあきらの絵本『ちんぽうがき』(ヨシモトブックス)が発売中だ。
2019年に刊行された処女作『むれ』(KADOKAWA)が、「第12回MOE絵本屋さん大賞2019」新人賞第1位を受賞するなど、絵本作家として鮮烈なデビューを果たした。5作目となる本作は、ひろたの故郷に実在する“柿”を題材にした不思議な昔話が描かれている。
今回のインタビューでは、“気になりすぎるタイトル”ついてはもちろん、作家になったきっかけ、印象的な先輩芸人の一言など、たっぷりと語ってもらった。
『ちんぽうがき』という面白いものがあるぞ
――『ちんぽうがき』を制作することになったきっかけから教えてください。
ひろた 地元の愛知県額田郡幸田町(こうたちょう)で、絵本大使をやらせてもらっているのですが、町の方から「地元をテーマにした絵本を作りませんか」とお声がけいただきました。そこで、幸田町を代表する有名な筆柿(別名:珍宝柿/ちんぽうがき)を絵本のどこかに入れたいなと思って……。
よく考えたら、めちゃくちゃ不思議な柿なんですよ。その土地の土や気候のおかげなのか、ちんぽうがきは幸田町周辺にしかならない変な形をした柿で、一つの木に甘柿と渋柿の両方が実るんです。ほかの地域に持っていくと、柿はなるけど、全部渋柿になっちゃうらしくて。そこで「なぜ、この町に“ちんぽうがき”がなるのか」という昔話を“勝手に”考えたら面白いんじゃないかと思いました。
――架空の昔話なんですね。タイトルもインパクトがあります。
ひろた 現在、一般的に呼ばれている筆柿よりも、ちんぽうがきのほうがインパクトあるし、目を引くなと思ってこのタイトルにしました。
――昔話を作るなかでコンセプトや伝えたいことはありましたか?
ひろた じつは、最初はまったくなくて「“ちんぽうがき”という面白いものがあるぞ」ということが伝わればいいな、楽しい絵本にしたいな、という思いで作っていました。
ひろた 物語のなかで柿を独り占めしようとするイジワルなヤツがいて、そいつにバチがあたるんですが、“みんな仲良くしよう”とか、そういったところはテーマにあるかもしれません。
今回は日本画で使うような画材を使ってます
――制作中の印象的な思い出は?
ひろた 毎回そうなんですけど、描いているときは毎日ただただツラいんです。家が職場になっちゃっているので、家に帰るときも“やらないとな~”とテンションが上がらないし、まだ絵を描く生活に慣れていないから、描きながら“早く終わらないかな~”と思っています。
――(笑)。では、完成したときは感慨深いものがあるのでは?
ひろた 編集の方から「原画OKです」と言われたときの解放感はすごいです。それからは、デザイナーさんがデザインを上げてくださったり、編集の方が帯周りを作ってくださったりするので、楽しく仕事ができる期間になりますね。
――これまでの4作品とは絵のタッチが違う印象を受けました。何か意図があるのでしょうか?
ひろた 昔話っぽくしたかったので、日本画で使うような画材に変えて、試しながら描きました。ただ、絵本に関しては毎回そうで、まずは「こんな絵本があったら面白いな」とお話を考えてから絵を描きだすので、どの作品も画材が違うんです。
とくに、今回はストーリーのある絵本に初挑戦したかったこともあり、これまでとは違うかたちで描きました。(絵本作家になるまで)芸人として10年くらい劇場に立っていたし、普段から絵を描くこともなかったんで、もともと自分の画風があるわけではないんですよ。
――絵本の読者は子どもが大半です。大人になると、どうしても童心が薄れていくと思いますが、そのすり合わせはどのようにされているんですか?
ひろた 正直、そこまで考えていなくて。僕も33歳なのに、0歳向けの絵本を読んで“面白いな”と思うこともあるんですよ。一番大事にしているのは、自分が面白いと思うかどうか。それに従って決めている部分はありますね。もちろん編集の方と考えながら作っていますけど、たぶん“3歳にはこれが響く”は一生わからないことだし、子どもに伝わる内容で、かつ自分が面白いと思うものを作りたいと思っています。
――最初の読者が自分であり、それがジャッジにつながっていると。
ひろた そうですね……。その言葉、作家っぽくていいですね。記事では、僕が言ったみたいにしてくれませんか?(笑)