Hi, how are you?の7枚目のオリジナルアルバム『Hi,how are you?』。ロウでバイブな質感、弾ける柳沢イズム、中井貴一のようなメロウネス、時任三郎的センチメンタリズムなど、ハイハワの真骨頂が示されており、「集大成的でありながら原点回帰を窺わせる内容」というリリースの文言の通り、セルフタイトルをつけるにふさわしい作品に仕上がっている。
今作について、Hi, how are you?の原田晃行に、ニュースクランチが話を聞いた。
気持ちが動く出来事があったときに曲はできる
――オリジナルアルバム『Hi,how are you?』、リリースされて少し時間が経ちましたが、振り返ってみていかがですか?
原田 今作は僕の意思で現状サブスクにいれていません。それはアートワークを楽しんでほしいという気持ちが大きくて。例えば、デジパックのビニールを開ける手触り。歌詞カードには、Tシャツにしたくなるようなカットを各所に配置できたのではないかと存じます。フランクザッパのジャケにときめく感じを自分なりに反映させたつもりです。
――今回、アルバム7作目にしてセルフタイトルにしたのは、何か理由があるんですか?
原田 前々作『Shy, how are you?』前作『High School, how are you?』に続き、今作を『how are you?』3部作の締めにしようと考え、今回はセルフタイトルにしました。収録曲よりもアルバム名が最初に決まりました。
――こうして作品をリリースし続ける、それってどこかでモチベーションがないとできないことだと思うんです。原田さんの場合、特に原田さん1人によるところが、制作においても、活動においても比重が大きいですよね。
原田 YES。
――原田さんのモチベーションはどこにあるのかな? と思ったんです。ここ数年、コロナもあって、なかなか思い通りの活動ができないと、モチベーションを高く保つのも難しいんじゃないかって。
原田 GIGができなかったことは思った以上に堪えました。遠方に出向いて知らない街の知らない文化に触れることが、自分が曲を作る動機になっていたことに改めて気づきました。最近でいうと、広島で出会った飯島直子似の敏腕整体師の方とか。彼女を題材に10曲くらいできそうなアンニュイな雰囲気がありました。気持ちが動く出来事があったときに曲はできてくるんで。
――なるほど、たしかに原田さんは常々そうおっしゃってますね。歌詞と曲は一緒にできる感じですか?
原田 YES。なんだかんだ2021年に5~6曲できたんで、じゃああと5曲くらい作るかという感じでした。アルバム製作において実質の締切はないんですけど、自分の中の勝手な締切はあって。それは、叩きあがった曲に新鮮味を持って相対することができる期限というか。ですので、コロナ禍によって曲ができないということはなかったです。
――一番思い入れがある曲はどれですか?
原田 MVを作った「メルビン」もすごく思い入れがあるのですが、1曲目の「OPENING NIGHT」ですかね。当初は2曲目の「返信封筒」を1曲目にしようとしていたんです。でも、この曲が最後にできて、これだなと。アルバムを作るにあたって想定していた流れがあったのですが、この曲が頭に来ることによって、あとの10曲の印象も変わってくるかなと。支流が増えた感じがしました。
〇Hi,how are you? - メルビン [Official Video][ ROSE RECORDS]
年末になるとゾンビを見たくなる
原田 レコードにする際、どこまでをA面とするか、という杞憂もしてみたり。6曲目までは在りし日の日記といった趣でまとめてみました。7曲目以降は賑わいを見せていた街が徐々に疲弊していく様子というか、コロナ禍≒ゾンビ禍みたいなイメージで。
――急にSFっぽい感じ! でもそれもすごくわかります、ゾンビがコロナのメタファーというか。
原田 7曲目と8曲目は、それぞれデパートと空港という人の出入りが多い施設を舞台としています。9曲目でパラダイムシフトが起きて、それを境にどんどん人がいなくなっていく。「かみ癖」というタイトルもご連想ください。
――(笑)。なんか『ドラゴンヘッド』みたいなイメージがしました。
原田 YES。長いあいだトンネルの中にいたからわからなかったけど、外に出てみたらもっと酷かった的な。
――そうです(笑)。
原田 で、10曲目でとうとう人間がいなくなって。締めの11曲目は夢オチとも取れるし、人間がいなくなって機械だけが残ったようにも取れるかなと。『わたしは真悟』が心の一作でもありますので。
――後半は、これまでのハイハワとは違うところで音楽を作ってるんじゃないか、という感じはありましたね。
原田 過去作は部屋に独りで居るような主題が多かったのですが、今作では目が覚めたらこの世に一人、咳をしても一人、みたいなイメージで作りました。コロナ禍にジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』や『クレイジーズ』、他監督ですが『処刑軍団ザップ』なんかを見たので、その影響も確実にあります。
――たしかに、あれもショッピングモールですもんね。
原田 中原昌也さんがゾンビについて言及している文面で膝を打った箇所がありました。以下、意訳にはなってしまいますが。あの映画ではどんどん人間が死んでいって、最終的に発電所も機能しなくなるんです。遠くの建物から順々と停電していく様子を横目に、もうすぐこのショッピングモールも停電するのか、という黄昏のなか映画が終わっていく。
眼の前で人が死んでいくことよりも、人が動かしていたものが止まっていくことにより終わりを感じてしまう。年末になるとゾンビを見たくなったり、イルミネーションよりも夜景に心動かされたりするのですが、そんなことを連想してしまうからかもしれません。
――なるほど。いつも飄々としてらっしゃるから、こうして聞くといろいろな思いや裏側があって面白いなと思いました。
原田 自分からわざわざ言うのは野暮ですよね。とか言って、勝手にべらべら喋りたいタイプなんですが。だから、こうして質問していただけるのはとてもありがたいです。