2006年生まれのボカロP・皆川溺(みながわおぼれ)。2019年から「23次元P」の名義でVOCALOIDを用いたオリジナル楽曲の投稿を開始し、2020年に現在の「皆川溺」名義での活動を開始。新進気鋭のアーティストとして、ボカロ界隈にとどまらず、ミュージックシーンに新風を巻き起こしている。
作っている音楽は、かなりオルタナティヴであるのに、インタビューや自身のSNSでは10代らしい真っ当な野心や可愛らしさも覗かせる皆川に、先日リリースされた両A面シングル『遠泳 / 銀色のQ体』の話から、今後の展望について聞いた。
〇皆川溺 - 遠泳 / 銀色のQ体
きっかけはニコ動の「弾いてみた」動画
――皆川さんのSNSから時折漏れてくるパーソナルな部分がとてもチャーミングで、発表されている音楽とのギャップが素晴らしいなと感じています。
皆川 ありがとうございます(笑)。
――もともと、音楽活動を始めたきっかけは?
皆川 中学1年生の12月、たしかクリスマスだったと思うんですけど、ベースを買ってもらったんです。自発的に音楽をやりたいと思ったのは、それが最初ですね。
――はじまりがベースだったんですね。
皆川 そうですね。ニコニコ動画の「弾いてみた」動画をよく見ていて、なかでもボーカロイドの曲をベースで弾いているのが、めちゃくちゃカッコいいなと思って。
――すごく馬鹿な質問に聞こえたら申し訳ないんですが……。
皆川 いえいえ、なんでも聞いてください(笑)。
――これは皆川さんに限ったことじゃないんですけど、なんでギターじゃなかったんですか? 最初はギターを買う人が多いんじゃないかなと思うんですが……。
皆川 確かにそうですよね。なんかこう……、みんなはギターとかドラムとかに目がいきがちだけど、やっぱりベースが一番カッコいいよねって視点を持っている自分は、人と違ってていいでしょ? みたいな感情も少なからずあったと思います(笑)。でも、弾いてみたの動画を見て、ベースがカッコいいと思ったのは本当です。
――でも、そういう気持ちがないと続かないですよね。ちなみに、もっと幼少期はどういう感じだったんですか?
皆川 いろいろな習い事をしていたんです。クラシックバレエ、空手、サッカー、絵も習ってました。自分からやりたいって言ったものもあれば、流れでやったものもあって。今になって思うと、他の子に比べて、自我があんまり確立してなかったのかな、と思いますね。普通は親からやらされたら続かなかったり、イヤなことがあったらやらなくなったりすると思うんですけど、そんなこともなく。
――なるほど。意外と思うもので言うと、皆川さんのツイートを見ていて、“あ、サッカーのことをツイートされるのは、実際にやっていたからなんだな”と思いました。
これでこのあとw杯だろ
— 皆川溺 (@23dimensionsP) December 18, 2022
最高かよ今日
皆川 そうなんです(笑)。サッカーは見るのも好きで、特に海外サッカーをよく見ます。
――ワールドカップも熱狂されていたのがよくわかりました(笑)。いろいろ習い事もしているなかで、能動的にやりたいと思ったのがベースだった、ということだと思うんですが、そこからまた表現のフィールドに向かうのは難しいと思うんです。
皆川 自分の場合は、ベースを買って、いきなり曲を作り始めたわけじゃなくて。たしか、両親のどちらかが持っていたiPodに入ってたガレージバンドのアプリで、適当にトラックを流して、それに合わせて弾く、ということをしていました。めちゃくちゃ下手でしたけどね(笑)。
――なるほど。でも、多くの人がそうだと思うんですけど、僕はギターを買って、早い段階で挫折したほうなんですけど、ミュージシャンの方に聞くと、わりと最初は歌本とかコード表を見てやるより、自分でとりあえず弾いてみて、音を認識して拾っていったほうが楽しいし続くって言われてて。そういうものなのかなと思ったんですけど……今の皆川さんの話を聞いて、それを思い出しました。
皆川 あー、どうなんですかね? ただ、話はちょっと脱線しちゃうんですけど、ギターで人の曲でちゃんと弾ける曲がないんですよね、なんなら自分の曲でも全然弾けない曲ばかりなんです、ギター下手なんですよ(笑)。
――そんな!(笑) 絶対に皆川さんの求めるラインが高いからだと思いますけど。
皆川 だといいんですけど……(笑)。話を戻すと、こういう「どうして音楽を始めたんですか?」「なぜそのスタイルなんですか?」みたいな話になると、いつも言っていることなんですが、僕の年代で“音楽をやろう”と思うと、一番スタンダードな方法がボカロだったんです。
――あー、なるほど、少し上の世代からすると、少し敷居が高そうに見えるものが、皆川さんの世代のとっては一番身近にある入口だったんですね。
皆川 そうだと思います。単純に目立ちたい、という気持ちはあったと思いますが、入り口がネットへの投稿だったのは自然なことでした。
――自分の頃、いわゆるミュージシャンに憧れて音楽をやるとなると、弾き語りかバンドをやるかしかなかったんです。それが若い世代の方は選択肢がたくさんあって、そのおかげで皆川溺の音楽を聴けている。これはすごく幸せなことだなって。
皆川 ありがとうございます。ネットが自分の入り口ではありますが、バンドに対しての憧れは今も強いんです。「絶対やりたい」と言い切りたいくらい(笑)。好きなバンドもたくさんいますし、個人個人すごい人が集まってバンドを組むのも面白そうですし、皆川溺名義で、いろいろな方にサポートで入ってもらって、バンドとしてライブをするのも楽しそうだし。まあ、いつか絶対やるだろうなと思ってます。