手書きの線による「ゆらぎ」が好き
――こむぎこさんが描くアニメーションは、きっちりとしたまっすぐな線っというよりは、どこかアナログ的な風合いを強く感じますが、線についてのこだわりはありますか?
こむぎこ 手で引いた線が好きですね。パースが若干くるってたりとか、絵としての整合性がとれていなくても、なんとなく成立して見えるのも、手書きのゆらぎというか寛容さがあるんですよね。
例えば、3Dレイアウトをそのまま使った背景で、手書き風の温かみのある線を使ったりすると、人物が置きづらくなったりすると思うんですよ。定規を引いてかっちり決めたなかで手描きで描くとなると、ちゃんとした線で描かないと目立っちゃうと思うんですが、僕の場合は適当っちゃあ適当ですし、全部をラフのノリで描いているので。
――それもすごいなと思います。しかも、そのラフっぽさが世界観にとても合っていて。
こむぎこ これはアニメが持っている物量法とも関係していると思うのですが、その物量を愚直に一つ一つ突き詰めていくと作り切れないんですよ。納期もあるので、それに間に合わせようとした結果でもあると思いますね。
定規でまっすぐ線を引くと、リアリティラインが高くなるというか、絵の精度が厳しくなって描くのが難しくなりますよね。だから、全体の絵のリアリティラインをほどよく下げて、リソースもカットし、なおかつ僕がそういう絵を好きだった。さまざまな都合と、自分の元来持っていたもので結果的にそうなっているんだろうなと思います。
――そのなかでも表現方法で特出していると思うのが、手や紙の細やかな動きだと思うのですが、そういう末端の表現に対するこだわりはありますか?
こむぎこ そういう細かいディテールというか演技の部分は、個人的には気を使っているほうだとは思いますね。演技を真正面から描くようなことはあまりしないんですけど、要点は押さえてると思います。
――要点という言葉かぴったりかもしれないですね。『優しい朝』で主人公が歩く際の手、何か感情が出ているような動きにとても惹き込まれました。あれは意識して描いたんでしょうか?
こむぎこ あれは意識的ではないと思います。僕が普段やっている動きというか、歩いたときに力を入れてない、関節が“ぶらん”となる感じが描きたかったんじゃないかと思いますね。
――そういう要所要所の動きで心を掴まれるんですが、動きに関する意識はいかがですか?
こむぎこ 最近は意識するようになったんですけど、以前はあまり意識していませんでした。ただ、今になって過去の作品を見返すと、無意識でそういう動きをやりたがってるなとは思いますね。結局、理屈でやっているうちはなかなかうまくいかないんですよ。
そういう意味では自分が過去に作った作品に学ばされることはあります。今の自分が意識的にやっていることを、昔の自分は無意識でやっていて、なぜかうまくいってるなって(笑)。
――こむぎこさんの作品を見ていると、動きもそうですが、いろいろな感情を含んだような表情も印象的です。表情についてはどう意識されていますか?
こむぎこ 僕自身、表情筋が弱いんですよね(笑)。それはあまり使わなかったからだと思うんですが。今でこそよく笑ったりしますけど、あまり感情を表に出さないタイプだったんです。そういう性格だから、あまり語らないほうが情報が伝わるんじゃないかと思って、それをイラストに込めて描いたのかもしれませんね。