作品に漂う「エモさ」は意識している

――こむぎこさんの作品には郷愁感や懐かしいと思うことが多いのですが、そういったイメージはどこから?

こむぎこ 懐かしさを強く意識して描いてる作品はいくつかあるんですけど、その原体験は『千と千尋の神隠し』になるのかなと思いますね。あの作品もみんなが普遍的に思ってる懐かしさみたいなものがあると思うんですよ。何をやっても子どもの頃に見たものが出るんだろうなとは思います。幼稚園とか小学生の頃の夏休みに、友達と遊べなくて退屈していた日の記憶とかが鮮明にあるんですよね。

――作品から感じる懐かしさは、こむぎこさんよりも上の世代でも感じると思うんですよね。

こむぎこ そういう懐かしさには自覚的ではあると思います。それを作品として描くときに、具体的に意識しているかは別として、そういう感覚はある程度、理解しているとは思います。作品に生かそうというわけではなく、小さい頃の夏休みを思い出して、当時、NHKとかでひたすら流れていた音楽を聴き直したりはするので。そういうのが作品に出ているかもしれないです。

――幅広い年代が「懐かしい」と思えるものを作れるのはすごいと思います。カセットゲーム機が出てきたりすることもありますし。世代ではないですよね?

こむぎこ そうですね。父親が持っていたゲーム機が家にはありました。自分の世代よりも前のカルチャーは、父親を通して受け取っていたと思います。

▲『優しい朝』(自主制作アニメーション)より

――そういうものに触れる機会が多かったと。

こむぎこ 触れる機会も多かったですし、そういうものに惹かれることも多かったと思いますね。

――イマジネーションの源というか、新海さん以外に影響を受けた作品や作家さんはいらっしゃいますか?

こむぎこ やっぱり宮崎駿さんですね。新海さんをキッカケにアニメを作り始めてるんですけど、新海さんを調べていくと、宮崎さんの影響を受けていることを知って、それで今まで何気なく見ていたジブリ作品を改めて見返したら、とんでもないアニメだと気づいて。

結果、宮崎さん本人に行きつきました。宮崎さんが築き上げてきた技法的な部分にも影響を受けてますし、作品に対する姿勢にも影響を受けてます。宮崎さんって完璧主義じゃないですか。自分が作品を作るときも、ちゃんとやらないとなと思いますね。“まだまだ奥があるんだな”って気持ちになります。

一人で作ることで自分の世界を強く持った作品になる

――おもに一人で作品を作られているとのことですが、一人で作ることの良さはどこでしょうか。

こむぎこ 普通なら却下されるようなことができる、ということはあると思いますね。自分にしか良さがわからないものでも、そのまま作れるというか。周りに人がいる状況だと、自分がどういうものを作ろうとしているかというのを周りに話して、その反応を見て方針を決めたりすることもありますよね。

当時、僕が一人で作っていたときは、自分の感性だけが指針みたいな状態だったんですよ。今思えば、“よくそんなことやるよな”と思うことをやってたりするんですけど。良くも悪くも自分が好きなものがそのまま出てくる。自分の世界を強く持った作品が作れるというのはあるとは思います。

――一人で作品を作る熱量って本当にすごいですよね。

こむぎこ ただ、僕は順番として、状況的に一人で作るしかなかったんですよ。『君の名は。』を見て、じゃあアニメーションをどうやって作るかっていうときに、YouTubeとかに上がってるいろんな自主制作のアニメを見て、“一人でもこのクオリティで作れるんだな”って認識して作り始めたんで。

新海さんが『ほしのこえ』を一人で作ったということにも影響は受けてると思いますが、そもそも一人で作らないといけない状況だったというのが一番の理由ですね。だから、作家性が出たのは結果としての副産物ですね。

――一人で作れてしまう環境もあったということも?

こむぎこ ありましたね。iPadで絵を描いて、CLIP STUDIO PAINTでアニメーション機能が使えるようになってからは、いつでもアニメが作れる状態でしたから。

――集団制作も最近はやってらっしゃるんですか?

こむぎこ 『綺羅キラー』のMVは集団制作で作りました。

〇ずっと真夜中でいいのに。『綺羅キラー (feat. Mori Calliope)』MV (ZUTOMAYO – Kira Killer)

――一人で作るのとは違いましたか?

こむぎこ 全然違いましたね。正直、助けられたことのほうが多かったです。スケジュールも切迫していたんで、物理的に一人では間に合わないところをみんなで協力して埋めてもらいました。僕が別の作業でてんやわんやなときでも、投げた作業を進めておいてもらえたりしたのがありがたかったですね。

――いいチームですね。最後になりますが、今後やってみたいことはありますか?

こむぎこ いつか映画を作ってみたいと思います。今はMVという形式が多いんですが、脚本とセリフありのアニメを作ってみたいですね。

――それはとても見てみたいです。

こむぎこ 最初は短いところから作っていって、いずれは長編を作れればいいなと思います。具体的に作る予定は全然ないんですけど(笑)。“作りたいなぁ”とは思ってます。

(取材:山崎淳)


プロフィール
 
こむぎこ2000
2000年生まれ・アニメーション作家ノスタルジックかつ繊細な色使いの個人制作アニメーションでSNSを中心に注目される。pixiv:こむぎこ2000、TikTok:@komugiko_2000、Twitter:@komugiko_2000YouTube:こむぎこ2000