自分の芝居でも意識するようになりました
――少し毛色を変えて、色物さんについてお伺いしたいのですが、好きな色物さんはいらっしゃいますか?
南沢 う~ん……。(しばらく考えて)ギター漫談のペペ桜井さん、大好きですね。ペペさんを見ると“寄席に来た”って思います。ゆるい雰囲気でお話されてるけど、それが面白くて。人柄の魅力でお客さんに愛されてる感じがたまらないですね。もちろん、芸もすごいんですけど。
――高座に出てきただけで温かい雰囲気になりますよね。この本を読んでいて感じたんですが、南沢さんは芸に対して神聖なもの、尊いものだという捉え方をされていますよね。
南沢 そうですね。やはり、お客さんの前に立って芸をされる方へのリスペクトが強いです。
――南沢さんも舞台に立たれてますから、そっちの立場なんですけどね(笑)。
南沢 (笑)。ただ、私の場合は共演者がいたり、脚本があったりするわけですけど、噺家さんは一人じゃないですか。それで笑わせたり楽しませたりするのが、本当にすごいなと思いますね。
――ご自身の表現にフィードバックされたことって何かありますか?
南沢 たくさんありますね、“こんな表現があるんだ!”って。寄席に行って、いろんなことを吸収してます。それこそ、おじいちゃんみたいな噺家さんが、艶っぽい女性を演じるじゃないですか。“艶っぽく感じるのはなんでだろう?”って思うと、本当にちょっとした所作だったりとか、指先の形とか、膝の閉じ具合とか、そういうことなんですよね。
“ちょっとしたことで、こんなに見え方が変わるんだ”と思ったときに、指先まで意識して作らないと伝わらないと思ったし、それを作れたらもっと自分の表現を伝えられるんだと学びました。
落語を俳優のお仕事に置き換えたときに、最初は舞台に近いのかなと思ってたんですが、見える角度とかを決めているのは噺家さん自身なので、“もしかしたら映像の芝居のほうが近いのかな”と考えるようになりました。
“こう見られたいから、こういう角度”とか、どこを見せたいかを考えて演じるということは、舞台で“全身を見てください”ってやるのとは、また違う意識なんだと気づいて。そこはお芝居でも意識するようになりましたね。
――この本では、黒田硫黄さんの漫画もいい味を出してましたね。
南沢 そうですね。硫黄さんはそんなに落語に詳しいわけではないらしくて。私の原稿を読んでいただいてから描いてくださってたので、そこから落語のことを知ってくださったみたいです。
――絵のタッチも良かったし、硫黄さんが詳しくないから描ける、良い意味で遠慮がない内容のバランスも素晴らしかったですね。
南沢 変にマニアックになりすぎず、新鮮な目で落語のことを描いてくださってて、私も硫黄さんの漫画を楽しみにしてました。
――最後に、今後やってみたいことはありますか? お仕事でもプライベートでも。
南沢 文章を書くという方面でいうと、小説とか書いてみたいなと思いますし、書くことは続けていきたいですね。自分の中で、お芝居でやってることを文章にすると整理できるんです。そのおかげで、お芝居にも良い影響が生まれてるような気がします。
――プライベートではありますか?
南沢 私、山登りが好きなんですけど、北アルプスに行きたいなあと思ってます。今、それを目標にトレーニングをしてます!
――すごい! 思いついたらすぐやっちゃうタイプですか?
南沢 そうですね。落語以外にも趣味を深めていこうと思ってます。
(取材:山崎淳)
〇今日も寄席に行きたくなって 南沢奈央/著 、黒田硫黄/漫画