3回目の落語を演じるとしたら?

――先ほど上方落語を最近聴くようになったとおっしゃってましたが、何かきっかけがあったんですか?

南沢 NHK大阪で落語番組のMCをやらせていただいて、そこで上方落語を取り上げていたので聴くようになりました。その時点で10年くらい落語を聴いてたんですけど、ホントに知らない落語ばっかりで。「江戸落語とこんなに違うんだ!」って驚きました。

その番組でご一緒していた桂源太さんは、NHK新人落語大賞でも決勝に行かれていて。上方特有の“テンポが速くて、にぎやかで!”みたいなところにも自分のキャラが乗っていて、面白いなと思います。上方落語はまだまだ詳しくないので、あまり語れないんですが……。

あと、女性の方も増えてきて。それこそ、桂二葉さんは今きてますよね! 皆さん注目されてると思いますけど、二葉さんの落語は、それこそ“落語って難しそう”と思ってる方が見たら、イメージが変わるような気がします。

――まさにそうだと思いますね。

南沢 見た目もかわいいですし、語り口もポップですし。初めての方にこそ聴いてもらいたいです。

――二葉さんもそうですが、女性の落語家さんが以前よりも増えました。南沢さんは女性の落語家さんをどう見ていらっしゃいますか?

南沢 私自身、落語を2回やらせていただいたんですけど、そのときに、女性だとやれる噺が限られてると感じたんですよ。でも、最近の女性の噺家さんを見てると、“そんなことないんだ”って思うようになりました。古典の男性しか出ない噺でも成立させているし、自分風にアレンジされる方もいらっしゃいますし、それとは別の道として、新作を作る方もいらっしゃいますよね。

“落語と女性って相性が悪いのかな?”と思ってたんですけど、最近の方を見てると、その人なりの面白さが出てて、今後の女性落語界の未来も明るいな、という気がしてますし、つい応援したくなっちゃいますね。

――ちなみに、南沢さんが次に演じるとしたら、どの噺をやってみたいですか?

南沢 あんまり考えてなかったんですけど…(笑)。今までやらせてもらった落語は、子どもがメインの噺と、女性がメインの噺を選ばせてもらったんです。それはやりやすいかなと思ってだったんですが、次やらせていただくなら「ザ・落語」みたいな噺をやってみたいですね。

粗忽者が出てくる噺……『粗忽長屋』『粗忽の釘』とか。よく落語に出てくる登場人物の「熊さん」「八つぁん」「与太郎」とかを演じてみたいですね。でも、それには相当な技術が必要だと思いますけど……。

――南沢さんがストイックに落語を挑まれているというのが伝わってきますし、この本を読んだ人が、今まで聴いてばっかりだったけど、自分も一回練習してみようかなって思わせるようなポップさも感じました。柳亭市馬師匠に稽古をつけてもらうシーンなんかは、ドキュメンタリーのように描かれていて、手に汗握って読みました。

南沢 うれしいですね。落語を聴いてるとマネしたくなったりしません?

――わかりますね。特に言葉とか。

南沢 江戸弁とか粋ですよね。その流れで私もマネしてたら一つ噺を覚えてた、とかなるといいんですけど(笑)。

▲落語を聴いてるとマネしたくなりますよね

談春師匠の「これからの『芝浜』」がすごかった

――これまで生で触れた高座で、印象に残っている噺を聞かせてください。

南沢 私、談春師匠がやっぱり好きなんです。初めて生で聴いた談春師匠の高座は鮮明に覚えてます。『子別れ』と『船徳』をやられてました。しっとりした人情噺と、笑いの多い滑稽噺ですね。

そのときは、まだ落語を聴き始めてそんなに経ってなかったので、“こんなに振り幅のあることを一人の方ができるんだ!”って素直に思いました。そこで談春師匠のすごみを生で感じて、落語にハマっていきました。

そこから多くの落語に触れて、そのうえで印象深いのが最近聴いた談春師匠の『芝浜』だったんです。先日の独演会で談春師匠が「これからの『芝浜』」という題で、今までの『芝浜』とは少し解釈を変えて、作り変えてやっていらしたんです。本当にどこか別の世界に引き込まれた感じの没入感のある落語で、“談春師匠にしかできない落語だな”というのをやられてました。すごかったです。

――多くの落語に触れてきた南沢さんだからこその説得力がありますね。

南沢 あとは本にも書いたんですけど、立川志の輔師匠の『牡丹灯籠』は印象深いですね。今年も見に行きました。30時間もある大作を、前半はあらすじを説明して、後半は演じる、というのを全部一人でやるっていうのはすごかったです。あれも志の輔師匠の編集の妙というか、本当に前後編合わせて見事な作品になっていると思いますね。志の輔師匠は落語の可能性を広げてくださっていると思います。

――立川流の方は、それぞれのやり方で落語の可能性を広げていっている印象がありますね。

南沢 そうですね。あ、立川流の話ばかりになっちゃって……。ほかの一門の方も印象に残ってるのたくさんあるんですが……。

――いやいや、いいんですよ。落語界全体のことを考えすぎです(笑)。

南沢 そうでしょうか…(笑)。私が衝撃を受けたのは、そのお二人です。