貧打にあえぐ打線のテコ入れ

そして本記事執筆時点での見込み野手スタメンと、2023年シーズンの成績が以下の通りとなります。

▲2023年シーズン、ヤンキース野手スタメン陣の成績

こちらの貧打すぎるヨボヨボ打線のほうが、投手陣より深刻と言えるでしょう。前評判こそ高かったのに、いざ蓋を開けてみると、シーズンを通して平均以上の打撃貢献ができたのは、キャプテンのアーロン・ジャッジ選手と二塁手グレーバー・トーレス選手のみという壊滅的な結果となっており、貧打へのテコ入れが最優先事項であることに異論を唱える人はいないはずです。

5月末に怪我を負うまでは大暴れをしていた一塁手のアンソニー・リゾ選手、後半戦に復調の兆しを見せた内野ユーティリティのDJレメイヒュー選手、22歳ながらシーズンを完走しつつポテンシャルの兆しも見せた遊撃手のアンソニー・ボルピ選手などは、改善や成長が見込めるとして、課題が残るポジションは外野(レフト及びセンター)、サード、そして指名打者(DH)……多すぎますね。

サードは前述のレメイヒュー選手が守れるほか、若手有望株のオズワルド・ペラザ選手の打撃開花を期待できる一面があるため、急務とまでは言えないものの、打撃力が求められる外野およびDHの補強は間違いなく不可避です。

そこで現在各メディアにて注目をされているのは、パドレスのスター外野手フアン・ソト選手のトレード獲得説。昨季も35HR、OPS.930、rWAR 5.6/fWAR 5.5と主砲に相応しい成績を残し、加入をすれば打線の大幅パワーアップは確実とされている一方、トレードにおける重い対価、年俸の高さ、保有期間の短さ(残り1年)など獲得へのハードルは多く存在します。

それでも(そもそも獲得できた場合ですが)獲得の意義は大いにあるため、山本選手とポスティングと同じく、ソト選手のトレード争奪戦に積極的に参加をするでしょう。

ちなみに、パドレスは来季もコンテンドをしつつ年俸を削減したいと噂されているため、ヤンキースの先発陣で年俸の安いキング選手、シュミット選手、コルテス選手のうち1~2名を中心とした選手パッケージが妥当かと思います。

しかし、このトレード案こそ山本選手クラスの先発投手をヤンキースが獲得できた場合のみ可能な補強では、と筆者は考えます。山本選手を獲得できるかどうかが、ヤンキースの計画の中核にあると言っても過言ではないでしょう。

期待される全体的な新陳代謝

山本選手、ソト選手といったわかりやすい補強が最もインパクトがあるものの、それよりも、チーム内における大きな入れ替え、新陳代謝こそ好影響が見られるのでは、と筆者は密かに期待を寄せています。

投手では前述のとおりルイス・セベリーノ選手、ヘルマン選手、野手でも三塁手のジョシュ・ドナルドソン選手、ユーティリティのアイゼイア・カイナー・ファレファ選手が退団し、再契約の可能性は低いとされています。

そのうえ、長年控え捕手を務めてきたカイル・ヒガシオカ選手も、今季終盤にデビューを果たした打撃型捕手のオースティン・ウェルズ選手にポジションを奪われると予想されており、トレード放出が既定路線とされていたり、さらなる新陳代謝が続くとされています。

また、2年連続で不甲斐ない成績を残しているDHのジャンカルロ・スタントン選手も、来季がラストチャンスと見られています。来季も不調が続く場合は、DH枠を他選手への出場機会としてはく奪され、スタントン選手はベンチ、もしくは解雇も視野に入れられる可能性もあり、いよいよヤンキースにも過渡期が訪れています。

そして去った選手の代わりに起用が見込まれるのは若手有望株ら。投手では前述のウォーレン選手(24)、ソープ選手(23)、ハンプトン選手(22)らが何かしらの形で貢献をしてくれるでしょう。

野手では、前述のボルピ選手(22)は先日発表された遊撃手ゴールドグラブ賞に輝くなど見事に台頭しており、後続として捕手ウェルズ選手(24)、外野手ペレイラ選手(22)、内野手ペラザ選手(23)が来季はシーズン頭からの活躍が期待されています。

また9月に8試合で4HR、OPS .980と鮮烈なデビューを果たしたジェイソン・ドミンゲス選手(20)は、トミー・ジョン手術の影響でシーズン途中までは離脱見込みであるものの、帰還時には最大の起爆剤になることでしょう。

確実な戦力をトレードやフリーエージェントで獲ってくることが戦力強化の要になることは間違いありませんが、自チームの育成力を信じ若手有望株のポテンシャルや勢いに賭けるというのも立派な戦略。ここ数年は主にベテランの再建に賭けてきたヤンキースにとって大きく舵を切る動きにはなりますが、素晴らしい英断だと思います。

▲来期もジャッジ(写真左)とボルピ(写真右)にかかる期待は大きい 写真:USA TODAY Sports / ロイター / アフロ

理想的なオフシーズンを過ごしたヤンキースが、コール+山本のダブルエース、ソト+ジャッジのダブル主砲によってワールドシリーズへ率いられる2024年シーズンが見えてきましたね(一部、妄想を含む)。楽しい楽しいストーブリーグ、ファン一同で楽しみましょう!


プロフィール
KZilla(ケジラ)
ニューヨーク・ヤンキース、およびMLBの魅力をTwitter、note、ラジオなどで発信し続ける注目の野球アナリスト。ニューヨーク育ちの英語力を活かした情報収集力と分析力は、コアなファンからも高い評価を得ている。今シーズンは愛するニューヨーク・ヤンキースとヤクルトスワローズが揃って低迷したため(涙)、来季に向けた補強分析に没頭している。X(旧Twitter):@TokYorkYankees、note:KZilla|note