手術の影響はどう出る? 大谷翔平の契約予想アゲイン
2021年シーズンより3年間、二刀流選手としてほぼフル稼働をし、HR王に輝くなど圧巻の成績を残した大谷翔平選手。個人的には大谷選手の2021-23年の成績は「MLB歴史上最も優れた3シーズン」といっても過言ではないと思います。
447試合 449安打 124HR 290打点 295得点 57盗塁
打率 .277 出塁率 379 長打率 .585 OPS 964 (OPS+ 161で平均より61%も優れている)
14.3 rWAR 15.5 fWAR
74試合 34勝16敗 428.1回 防御率2.84 WHIP 1.05 542奪三振
14.2 rWAR 11.0 fWAR
しかし、残念ながら大谷選手は8月下旬に右肘靱帯断裂のケガを負い、現地9月19日には靱帯を手術することが発表されました。これにより2024年シーズンは投手としての全休が懸念される一方、打者としてはシーズン開幕に間に合うことが期待されています。
2018年オフにも右肘靭帯の断裂を修復する靭帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)を受けており、今回二度目の肘の手術となった大谷選手ですが、それでもこれまでの超人ぶりを見る限り、完全復活をして再び世界を虜にすることでしょう(と筆者含め大半の方は期待しています)。むしろ術後の完全復活以上に、「今後どのチームと何年契約を結ぶか」という“去就問題”のほうが読みにくくなっています。
6月下旬に本連載にて「大谷翔平はニューヨーク・メッツと12年6.6億ドルの契約を締結する」と予想しました(記事はお陰様で多くの反響をいただきました!)。しかし、こちらは“二刀流大谷”の契約予想であったため、現状の「24年指名打者、25年以降二刀流大谷」の契約予想としては当てはまらなくなってしまいました。というわけで、今回は改めて「大谷翔平の契約予想:23年オフ編」をお届けしたいと思います。
「お金よりも起用方針」過去の常識が通用しない大谷翔平
以前に掲載をした記事では、大谷選手の市場価値の高さを解説し、最終的には彼が勝ち取る契約の平均年俸が5,000万ドル前後、契約年数が10年以上となる可能性を取り上げました。彼の市場価値の高さは怪我込みでもほとんど変わらず、特に平均年俸は私の予想から乖離することはないと思います。しかし、今回の怪我と手術、それにまつわる各関係者の対応により、契約の構造や年俸以外の条件が大きく変わるのでは、と考えております。
契約予想の記事などでは多くの場合、「理論上可能な最大規模の契約」に着目されがちですが、今回は単に「最大金額の札を入れたチームが落札する」といった単純な話にはならなさそうです。契約規模はもちろん大事ではあり、相当な高年俸を見込む点を踏まえると資金力は大前提にはなりますが、それは単純に「お金があるかないか」だけの話。
それ以上に今回は、応札するチームが最も考えなければならないポイントは「大谷選手が契約から“何”を求めるか」だと思います。ここまでの大谷選手の歩みや活躍を鑑みると、その“何”とは「ワールドシリーズ優勝の可能性の最大化」と「自身をいかに柔軟に起用するか」ではないでしょうか。
まず、大谷選手の勝利へのこだわりの強さは言うまでもないでしょう。ここ数ヶ月において痙攣が繰り返し起きてもほとんど欠場をせず、自分の身を粉にしてロサンゼルス・エンゼルスをプレイオフへ導こうとした姿を見ると、「本当にエンゼルスで勝ちたかったんだろうな」と心を打たれたのは筆者だけではないでしょう。
しかし、結局エンゼルスでは一度もプレイオフへの進出を果たせませんでした。要因は運を含めいろいろとありますが、最終的にはチームの首脳陣が「勝てるチーム」を築けなかったことに尽きるでしょう。なので、まず筆頭候補として上がってくるのは戦力が整っているチーム――もっと言えば「長期にわたってプレイオフを狙えるような体制が出来上がっているチーム」ではないでしょうか。
これは怪我をする前からも明らかではあったものの、怪我直前までの大谷選手の必死なプレイを踏まえると、「数年後に黄金期到来」といった(再建中の)チームへ移籍をする可能性は完全に消えたのではないでしょうか。
そして同じくらい大切になってくるのが、大谷選手の自身の起用法、もっと広義に言えば「自身の去就の柔軟性を確保する点」ではないかと推察します。シーズン終盤で特に明らかになったのは、大谷選手は「自身の起用方針の最終判断は自身で持ちたい」というこだわりが非常に強い点です。
試合中に痙攣で途中交代となった次の日も何事もなかったように出場したり、右肘の靱帯断裂が判明をしたあとも打者として出場を続けたり――と世間の大半が「休養をすべき」との見方であったなかでも、大谷選手本人の判断である種無理してでも貫き通した意志の強さを感じました。
契約先のチームはこのような権限を大谷選手に与えることは大前提として、更に契約自体についても自身が最終決定権を持つような柔軟性の高いものを求めるのではないでしょうか。
例えば、とあるチームと契約をしたものの、蓋を開けてみればエンゼルスと同様に「勝てる見込みがない」となった場合、勝ちにこだわるのであれば他チームへの再移籍も視野に入れるのは当然でしょう。つまり、長期契約でも数年ごとのオプトアウト条項(選手側の契約破棄条項)、更に枠外の可能性を挙げれば、いったんは短期契約でそのチームの力や体制を見極めつつ、再契約や移籍の可能性を自ら模索できるアプローチもあり得るのではと思います。
ただ、そんな私たちの予想を裏腹に、大谷選手の「チームへの忠誠心」というものも目の当たりにしてきました。NPB時代の在籍チームである北海道日本ハムファイターズや、古くから付き合いのある関係者への恩がよく漏れ伝わるほか、エンゼルスが毎年のようにプレイオフ争いから脱落しても、トレードやチーム改善などは要求しませんでした。
「このチームで勝ちたい」。まさにそれを有言実行してきたのが大谷翔平選手であり、一度コミットをした暁には、絶対に勝利や優勝を諦めない意志も持っています。