山本投手の視察のためにキャッシュマンがやってきた!

9月9日、オリックス・バファローズの山本由伸選手が自身2度目のノーヒットノーランを達成しました。2年連続の達成は1941年以来、82年ぶり3人目の快挙です。「日本のエース」とも呼べる山本選手の偉業達成にまったく驚きはなく、昨年の日本一、2年連続の投手5冠および沢村賞(沢村賞は3年連続の受賞)が濃厚と、もはやNPBではやり残したことがないでしょう。

そんな山本選手ですが、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手と同じく、今オフシーズンにはポスティング制度経由でMLB挑戦が見込まれており、多くの球団から獲得への興味を寄せられている状況です。

さて、前述のノーヒットノーランの試合映像をよく見ると、ネット裏に坊主頭のアメリカ人がいたのに気づいたでしょうか。鋭い方はお気づきかもしれませんが、あの人物こそがニューヨーク・ヤンキースの編成のカギを握るゼネラルマネージャー(GM)のブライアン・キャッシュマン氏。そう、ヤンキース編成のトップが直々に山本選手を視察しに来たのです。

2013年オフに田中将大選手を獲得した張本人が、マー君以来の大物日本人投手獲得に本腰を入れてきました。山本選手の本格的な獲得調査を行っているヤンキースですが、果たして本当にチームにフィットするのでしょうか。現在のチーム事情を解説しつつ考察していきましょう。

シーズン開始時から崩壊したローテーション

何を隠そう、現在の名門球団ニューヨーク・ヤンキースは奈落の底に陥っています。プレイオフはおろか、直近は勝率.500の境界を縄跳びする日々が続いています。その最大の要因は圧倒的な打撃不足、そして先発ローテーションの度重なる怪我による崩壊です。

実際に2023年シーズンの開幕前見込ローテを見てみましょう(成績は9月19日現在)。

ゲリット・コール(今季防御率2.81) → 健在。ア・リーグのサイ・ヤング賞候補
カルロス・ロドン(同6.14) → 怪我により3ヶ月離脱、復帰後は絶不調
ルイス・セベリーノ(同6.65) → 怪我により1ヶ月離脱。復帰後は絶不調で、再度の怪我により今季絶望
ネスター・コルテスJr.(同4.97) → 開幕から怪我により絶不調。しかも今季絶望に
フランキー・モンタス(登板なし) → 復帰の兆しすら見せず、登板ゼロでシーズン全休が現実的に
ドミンゴ・ヘルマン(同4.56) → 完全試合達成も、直後にアルコール依存症治療で今季絶望

このように、目をそむけたくなるレベルの災難が続いてしまいました。そしてFA移籍や退団が見込まれる選手などを踏まえた、来季の予想ローテが以下のとおりです。

ゲリット・コール
カルロス・ロドン
ネスター・コルテスJr.

クラーク・シュミット(今季より先発ローテ入り。防御率4.56)
マイケル・キング (8月よりローテ入り、5登板で防御率1.27、通季防御率2.77) 
(ドミンゴ・ヘルマン)

コールは引き続き不動のエースとして頼れるものの、ロドンとコルテスは怪我の懸念がぬぐえません。来季開幕時の状況によりますが、シュミットは実力的には本来4~5番手級、キングは先発適正良好も1年を通してローテを守れるかが不明です。ヘルマンはそもそもアルコール依存症の治療もあり、去就そのものが不明。かなり安定感の欠けるローテーションとなってしまっています。そこに山本選手を加えるとどうなるでしょうか。

ゲリット・コール
山本由伸
カルロス・ロドン
ネスター・コルテスJr.
クラーク・シュミット
(マイケル・キング)

コール・山本のダブルエースに、本調子であればエース級のロドン、そこに21~22年で防御率2点台という圧倒的な成績を残したコルテスが完全復活すると、夢の4枚エースローテが完成します!(オフに怪我がありませんように……)。

結果、ロングリリーフのエースだったキングを先発から中継ぎに戻すことができ、ブルペンの再補強にもなるというおまけ付き。そして、ロドンとコルテスが本調子を取り戻せない場合でも、コール、山本、シュミット、キング+チェイス・ハンプトンorドリュー・ソープ(実績はないもののマイナーで活躍中の有望株投手)と相応に戦えるローテが形成されます。

もちろん、MLB未経験の山本選手が絶対に成功できる保証こそありませんが、メジャーでも顔負けしない最速100mph手前(159km/h)のストレート、ストンと落ちるフォーク、カーブ、カット、シュート、スライダーの6球種を世界でも稀に見るピンポイントなコントロールで投げ込めることを踏まえると、その活躍を期待しないほうが難しいでしょう。

事実、WBCという大舞台で超一流の選手たちを相手に大活躍(2試合7.1回2失点、12奪三振に対し被安打4、2四球)した点が、メジャーでの可能性をプレビューしたのではないでしょうか。そして何よりも頑丈さ(21年に26先発193.2回、22年に26先発193回、23年も9月19日現在で21先発150回)が、諸刃の剣だらけのヤンキース先発ローテのなかでも重宝されるでしょう。

そして、山本選手レベルの投手を加えることがヤンキースにとって急務であるなか、今オフのフリーエージェント市場では山本選手に匹敵する選手がいません。トレード市場が不作かつ未知数である以上、もはやヤンキースは山本選手を獲得しない手はありません。