オカダとの勝負で感じた立ちはだかる壁

2023年2月12日、エディオンアリーナ大阪で同世代のジャック・モリスを撃破して、GHCヘビー級王座3度目の防衛を果たした清宮海斗。試合後には新世代でNOAHの新しい歴史を創っていくことを高らかに宣言したが、その直後に信じられないことが起こった。新日本プロレスのオカダ・カズチカに襲われて、レインメーカーでKOされてしまったのである。

その伏線になったのは1月21日、新日本の横浜アリーナ大会で行われた新日本vsNOAHの対抗戦。清宮は稲村愛輝と組んでオカダ&真壁刀義とのタッグマッチが組まれた。

かねてから清宮はオカダの存在を意識していた。コロナ禍の2020年5月24日の無観客TVマッチでレネ・デュプリに勝ったあと、唐突に「武藤敬司と戦いたい。それとレインメーカーを体感したい」と発言。それは政治的な難しいことを抜きにした純粋な気持ちから飛び出した言葉だった。

その1年8ヵ月後の2022年1月8日、新日本の横浜アリーナ大会で棚橋弘至&オカダvs武藤敬司&清宮という夢の対抗戦が実現。オカダのレインメーカーに屈した清宮は号泣した。

それから1年後の今年1月21日、横浜アリーナのタッグ対決はオカダ=IWGP世界ヘビー級王者、清宮=GHCヘビー級王者という文字通り両団体トップ同士の激突になった。

だが、オカダの清宮に対する態度には、“NOAHの王者”に対する敬意はまったく見られなかった。清宮の挑発を無視して完全に格下扱いし、オカダが稲村にチンロックを決め、清宮がカットに入ってストンピングを浴びせても涼しい顔。ここで清宮が顔面を蹴り飛ばしたことで、試合は急展開を迎える。

清宮の背後からの顔面蹴りで額を割ったオカダが試合そっちのけで清宮に殴りかかり、これに清宮も応戦。両者ともに試合を度外視して乱闘を繰り広げ、オカダがマウントポジションかビンタを乱打すれば、清宮は制止を振り切って顔面にドロップキックを浴びせて一歩も引かない。相手チームの真壁が「落ち着け!」と割って入るほど、清宮はエキサイトしていた。

結末は試合不成立のノーコンテスト。ファンのあいだでは「清宮の顔面蹴りは、かつて前田日明が長州力の顔面に見舞ったのと同じで、プロレスの範疇を超えたもの」という非難の声もあれば「ナメられたまま引かなかった清宮を見直した」「オカダをキレさせた清宮はすごい」などの賛否両論が巻き起こった。興味深かったのは、新日本のファンから「オカダを本気にさせてくれた」と、清宮を支持する声もあったことだ。

「一方的に“いずれ、この人を倒してやろう”という気持ちがずっとあって、あの横浜アリーナでは“この一戦で倒して上がってやろう!”っていう気持ちが溜まっていて、そこをスカされたので感情が爆発しちゃいましたね。抑えきれなかったですね、あのときは。“ふざけんな!”っていう気持ち…っていうよりも、気持ちよりも先に体が動いていました。

ノーコンテストになってしまったので、試合としては成立してないわけですけど、いいか悪いかは別として、自分としてはホントにあそこから腹を括ったというか、どんな批判があったとしても自分はオカダ・カズチカを倒したい、超えたいという気持ちでした」と、清宮は試合が不成立になっても己を貫いたことを後悔していない。

▲自分自身の行動に悔いはない

このノーコンテスト試合を受けて、翌日1月22日に2月21日の東京ドームにおける武藤引退興行で、清宮vsオカダのシングルマッチ30分1本勝負が発表された。ところがオカダは「やりません。勝手に会社が発表しただけであって、新日本の大会でもないですし、僕がそこで戦う必要性はないと思う」と、対戦を拒否。清宮には興味なしとした。

だが、オカダの本心は“やる気”だった。冒頭の2月12日大阪でのレインメーカーが清宮に対する返答だった。清宮の“あの顔面蹴り”が、オカダを一騎打ちの舞台に引っ張り出したのである。

30分1本勝負ということで、ファンのあいだでは「どちらも傷つかずに30分時間切れになるんじゃないか」とも囁かれたが、そこで「完全決着の時間無制限1本勝負で!」と主張したのが清宮。そこに清宮の“本気”が見て取れた。

そして東京ドーム決戦。試合は両者の感情が真っ向からぶつかり合った。感情のままに戦う清宮姿は、普段とは少し違ってイレギュラーな戦いに見えた。

最後はオカダがレインメーカー、延髄切り、旋回式エメラルドフロウジョン、そしてダメ押しのレインメーカーを決めて勝利。勝ち誇ることもなく、さっさとリングを降りたこともあり、オカダの圧勝のようなイメージがある。しかし改めて映像を確認すると、清宮がレインメーカーをスタンディングのシャイニング・ウィザードで迎撃して、タイガースープレックスなど追い込む場面もあり、見応えのある勝負だった。清宮本人はこの試合から何を感じたのだろう?

「プロレス界のトップと、その時点での自分との差をものすごく感じましたね。自分はオカダ選手のことだけしか見ていなかったですけど、一方のオカダ選手は全体を見ながら試合をしていたなって。それは映像で見てもオカダ選手が自分のペースで試合をやっているのを改めて感じましたね。

僕は感情を抑えられないまま行ってしまっていて、全体は見えていなかったです。自分がいつもやっている試合ではなかったかもしれないですね。そういう部分ではオカダ選手に引き出してもらった、引っ張ってもらったというのも感じていて。そこが自分はまだまだだなって」

▲オカダとの戦いは確実に彼の糧になっている

これでオカダとの戦いは終わったわけではない。先を見て清宮はこう言う。

「負けたままでは終われないですし、オカダ選手との差を誰よりも自分自身が一番知っているからこそ、“自分自身がやらないと!”って決めていることがあるんです。いつ戦うときが来るかわからないけど、その日のためにその差を埋めていって、必ず超えます」