プロレスリング・ノアにとって2023年は激動の1年だった。まず何より大きかったのは、2月21日の東京ドームにおける武藤敬司の引退である。リビング・レジェンドの現役引退によって、方舟はどこに向かうのかと危惧する声も少なくなかった。

武藤引退時、GHCヘビー級王座に君臨していたのは清宮海斗。その清宮は3月19日の横浜武道館で、元全日本プロレスのジェイク・リーに陥落。元日の日本武道館でNOAHに宣戦布告したジェイクは、参戦わずか11戦目でノアの頂点に立つと、中嶋勝彦、丸藤正道、杉浦貴、潮崎豪といった歴代王者を次々に撃破して方舟の舵を握った。

外敵に握られた方舟の舵を取り返したのは拳王。10月28日、福岡国際センターでジェイクを撃破して第43代GHCヘビー級王者になり、来たる2024年1月2日には有明アリーナで征矢学と初防衛戦を行う。

この大一番からNOAHの新年がスタートするわけだが……やはり、新たな年に注目したいのは、12月9日にキャリア丸8年を迎える27歳の清宮海斗である。ジェイクにGHCヘビー級王座を奪われ、新日本プロレスのオカダ・カズチカに敗れるなどの辛酸を舐めつつ、新日本の大岩陵平と団体枠を超えた同世代タッグを結成し、新時代に踏み出そうとしている清宮。大きな糧となった2023年の戦いを改めて検証しつつ、2024年の清宮を探っていこう。

▲NOAHカラーの緑を基調にしたスーツで登場した清宮海斗

変型シャイニング・ウィザードを“清宮と言えば!”の技にしたい

振り返ると、清宮にターニングポイントが訪れたのは昨年2022年夏だ。6月に武藤が引退表明、ファイナルカウントダウンのスタートとなった7月16日の日本武道館において、4度目の一騎打ちにして清宮が武藤に勝利したのである。

序盤のグラウンドでの攻防でも主導権を握った清宮は、シャイニング・ウィザード、ドラゴン・スクリュー、足4の字固めの武藤殺法で武藤に勝利。試合後、武藤は「俺に勝ったご褒美として、ドラゴン・スクリュー、4の字、シャイニング・ウィザード、あいつに譲るよ」と、三種の神器の譲渡を宣言した。それは武藤が清宮にバトンを渡したと言ってもよかった。

だが、いきなり武藤を背負うのは清宮には重かった。そしてファンも戸惑った。武藤が発言したあと、もちろん歓迎する声もあったが、「武藤のコピーになってしまうのではないか」「オリジナルで勝負してほしい」という声もあり、ファンのあいだで賛否両論が生まれた。

「自分の気持ちとしては武藤さんにそう言っていただいて、技を大事に出していこうという気持ちはあったんですけど、すごく葛藤がありました。試合で出していくなかで、“本当にこれでいいのかな?”っていう迷いが最初はありましたね」と、清宮は振り返る。

▲武藤敬司から授かった神器と葛藤した日々を振り返る

あえて武藤殺法を封印して、8月のN-1では開幕からチャック・モリス、マサ北宮に2連敗。3戦目の8月14日広島の中嶋勝彦戦では「なりふり構っていられない!」とシャイニング・ウィザードの連発から足4の字固めで勝利。続く8月19日後楽園では、船木誠勝の頭を掴んでのオリジナル変型シャイニング・ウィザードで勝利した。

その後、杉浦貴と小島聡にシャイニング・ウィザードに勝って怒涛の4連勝。9月3日大阪での鈴木秀樹との優勝決定戦では、変型シャイニング・ウィザードをぶち込んで悲願のN-1制覇をやってのけた。

「N-1で中嶋選手に(武藤殺法を)出したところから少しずつ吹っ切れていきました。変型シャイニングは船木選手との試合で偶然生まれたというか、“この人を倒さないと!”って思ったときに、頭を掴んででも膝を入れようという形で咄嗟に出たものです。

武藤さんの技に限らず“自分がやる場合には、どういう動きをすればより効くか?”というのは、いつも考えているところで、昔から瞬発的な動きのドロップキックには自信を持っていたんで、そこをプラスしてやってみようかなと考えたりしていくなかで、立った相手へのシャイニングが生まれたりとか、自分の起動力を生かすことを心掛けています。

そこから迷いも何もなく、武藤さんと比較するのはおこがましいと思うんですけど、自分の中では“清宮と言えば!”というところまでもっていこうと思っています」

▲得意とする起動力でこれまで成長してきた

N-1優勝の勢いを駆って、9月25日名古屋で拳王のGHCヘビー級王座に挑戦して、LOVEポーズからの変型シャイニング・ウィザードを炸裂させて第41代王者に。そこに迷いはなかった。デビュー当初から三沢光晴二世を期待され、さらに武藤敬司の後継者と目されたが、誰のコピーでもない、さまざまなエッセンスを取り入れた清宮オリジナルのプロレスの確立し、自分たちの世代のプロレスの創造に邁進することを心に決めたのだ。

「NOAHで最強を名乗って、このベルトを守っていくんだったら、絶対に避けて通れない」と、10月30日有明アリーナにおける初防衛戦の相手に藤田和之を逆指名。フィニッシュのフランケンシュタイナーがやや崩れたものの「敵とか壁が多いけど、前しか向けない。俺がNOAHを引っ張っていくんで、俺を観に来てください」と叫んだ。