若い方は「こっくりさん」をご存知でしょうか。1970年代半ばの超能力ブーム時に日本でも大流行しましたが、それ以前に世界各地で心霊術が興行化した「テーブル・ターニング」と呼ばれて普及したものです。科学に詳しい左巻健男氏が真相を解説します。

※本記事は、左巻健男:著『陰謀論とニセ科学 -あなたもだまされている-』(ワニブックスPLUS新書:刊)より一部を抜粋編集したものです。

イギリスでは研究も行われた「こっくりさん」

紙の上に鳥居と「はい」「いいえ」、50音などを書き、10円玉を鳥居の上に置いておきます。10円玉の上には何人かが指を重ねて乗せ、神様を呼び寄せる呪文を唱え、質問をします。すると「はい」とか「いいえ」のところに10円玉が移動して“お告げ”を知らせる、「こっくりさん」という遊びが流行ったことがあります。

とくに1974年ごろの超能力ブームが起きると、全国的に大流行しました。

呼び寄せる神様は「こっくりさん」とは限りません。キューピットさんやエンゼルさんなど、いろいろな“ごさま”がいました。

▲「こっくりさん」には狐か狸あるいは鬼神の仕業である説もある イメージ:boku masahiro / PIXTA

時には、このような遊びをした人が何かにとりつかれたような状態になることがあります。校舎の三階から転落したり、ノイローゼ状態になったり、奇行に走ったりする問題や、集団こっくりさん中毒にかかったと言えるような問題が発生し、学校で禁止されるようにもなりました。

この「こっくりさん」は、古くヨーロッパに源をもつ心霊術の一種で、欧米では「テーブル・ターニング」と呼んでいました。

「こっくりさん」が動く理由については、電磁誘導現象の発見などをしたマイケル・ファラデーが、1853年に論文「テーブル・ムービングの実験的研究」を発表しています。テーブル・ムービングはテーブル・ターニングの別の言い方です。

板倉聖宣著『手品・超能力と科学の歴史――その覚え書き』によると、19世紀の中頃、ヨーロッパを心霊術ブームが襲いました。

当時、新興国アメリカで始まった心霊術が興行化し、全ヨーロッパに波及したのです。

それを憂慮したファラデーは「事実に基づいた説得力のある意見を提供するために、この研究をおこなった」のです。

「私は、彼らこっくりさんをやる人たちが意図的にテーブルを動かしているとは思わない。けれども、ほとんど無意識の筋肉運動によってテーブルを動かしていると考えている。さらに私は、彼らの予期(意向)が彼らの心理、ひいては彼らのテーブル・ムービングの成否に影響を与えるのは間違いないと思う」という仮説を実験的に検証しました。

ファラデーは論文の締めくくり部分で「私はこの叙述を少し恥じている。というのは、現代という時代に、しかも世界のこの地で、こんな研究は必要とされるべきではないと考えるからである。それにもかかわらず、これは役に立つかもしれないと思う」と述べています。

当時の世界の中心地でもっとも科学が進んでいるイギリスで、こんな非科学的なものが流行し、それに対応しなければならない心情が吐露されているように思います。