「こっくりさん」は明治時代に伊豆の下田に上陸

わが国で「こっくりさん」が始まった経緯は、日本で最初に科学的解明をした井上円了氏の『妖怪玄談 狐狗狸の事』(明治20年刊 / 復刻版は仮説社1978)に詳しく書かれています。ちなみに『妖怪玄談』は、インターネットの図書館である青空文庫でも読むことができます。

井上氏の調査によると1884(明治17)年ごろのこと、船が破損して伊豆に漂着したアメリカ人船員がしばらく下田に滞在し、テーブル・ターニングを教えました。

道具は日本で入手しやすいものを使いました。長さ40~50センチメートルの棒を三本交差させ、これを足とし、その上にご飯を入れる木製の器である「おひつ」のふたなどを乗せたテーブルを使いました。

3人がそのまわりに座り、テーブルの上に軽く手を乗せて「こっくり様、こっくり様、お移りください。お移りになったら足を上げてください」などと唱えると、テーブルが傾いて足が上がります。

こうして「こっくりさん」が乗り移ったら、以後こっちの足を上げたら「イエス」、あっちの足を上げたら「ノー」というようにサインを決め、さまざまな事柄について伺いを立てるのです。これが下田の港からアチコチに伝わっていきました。

数年後の1887年には日本全国で流行するに至ります。下田でアメリカ人船員が英語で「テーブル・ターニング」と言ったとしても、現地の日本人は英語を解せず、おひつを用いた台が「こっくり、こっくりと傾く」様子から「こっくり」や「こっくりさん」と呼ぶようになりました。やがて「こっくり」に狐・狗・の文字を当てて「」と書くようになったと言い伝えられています。

▲テーブル・ターニングの風景(アンジュ=ルイ・ジャネ) 出典:Wikimedia Commons

井上氏も「こっくりさん」がなぜ動くのかという疑問に対して、「予期意向と不覚筋動が原因である」と説明しました。狐か狸あるいは鬼神の仕業である説、電気の作用である説、参加者に故意に動かす人がいるか、さもなければ実際は動かないのに動いているように見えているだけだという説を否定しました。

そのうえで、装置が動きやすいこと、いったん動き出すと人と装置の動きが増進されるとともに、もっとも必要な原因として、人の精神作用から生じる原因、それから予期意向と不覚筋動をあげています。

「こう動いてくれるといいな」とか錯覚、「答えはこうなるはずだ」とあらかじめ心の中に期している潜在意識、すなわち「予期意向」によって、参加者の誰かの筋肉が無意識のうちに動き出す。これが「不覚筋動」です。

予期意向は信仰心とも関係が深いですから、なんでも信じやすい人は強く影響を受けるでしょう。机を囲んで暗い部屋の中に立って、ひじをつけずに指先だけで10円玉に触れている状態は、力学的にとても不安定な状態です。

だから、動きの最初のきっかけは、そういう人の指の動きなのでしょう。装置の不安定性や神秘的な雰囲気を醸し出すための儀式ばったルールなどが、予期意向と不覚筋動をいっそう強めているのです。