人間関係において重要なのが「共感力」というスキル。相手の感情を受け止めて、理解することですが、すぐに「わかります!」と伝えることではありません。まずは相手の話を遮らずに徹底して聴くことで、見えてくるものがあるのです。コミュニケーションコンサルタントの吉原珠央氏が、敬意のある共感をするためのポイントを教えてくれました。
※本記事は、吉原珠央:著『シンプルだからうまくいく 会話のデザイン』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
自分よがりのアドバイスは絶対NG
こちらが何かを話した瞬間、すぐさま「わかります」「わかる~、わかる~」などと、語気を強めて反応する人がいます。共感しようとしてくれる気持ちの表れなのかもしれませんが、その勢いのせいで、相手の話の流れを止めてしまっては、せっかくの気遣いが台無しになりかねません。
また、それだけならばまだしも「わかります! 私もまったく同じ経験があって……」などと、そのまま自分語りが始まるケースもよくあります。
そんなとき、共感することとは、本来、何を意味しているかについて考えさせられます。
「『共感』とは、自分以外の人の経験を敬意とともに理解すること」
この一節は、対人関係の衝突を避けて、非暴力的なコミュニケーションの解決のためのプログラムNVC(Nonviolent Comm unication)を開発した、アメリカの心理学者マーシャル・ローゼンバーグ氏が著書で述べていることです。
相手が話したことに対して、自分よがりのアドバイスをしたり、「私もそういうことある!」と自分のことを語り始めたり、「それがルールでしょ」と正論を言って、「世の中、そんなものだよ」「大丈夫だよ」などと、決めつけた言い方で話を終わらせてしまうような反応は、ローゼンバーグ氏が意味する共感とは、だいぶ程遠いと言えます。
こうした発言は決して悪気があるわけではなく、「私にもあります」「わかります」などと言って、自分もつらい経験をしたがなんとか克服できたと話すことで、相手を励ましたいとか、“この人の問題を、なんとかしてあげたい”という思いからくるものだということは理解できます。
ただ、もしかしたら、単に「自分も話したい」という欲求の表れになっていたり、「私が話すことは役立つはずだ」という勘違い、または傲慢さからくる、相手にとって余計なアドバイスになっている可能性もあります。
相手の話を遮り、自分の話に酔いしれて、相手の話を軽んじるような会話をしている人というのは、結局、会話を観察する機会を逃すことになるのです。そのため、その話題も、相手についても、なんら確実な情報(相手の感情、要求など)を十分に持てないまま話をせざるを得ません。
そのように、重要な情報を持たない状態で会話をすることは、普段着で富士山の頂上を目指すほどに無謀で、信頼関係という山頂を目指すには、あまりにも準備不足で、相手とのあいだに不安定な状況を作ることになるのです。
ですから、会話では相手の話が一区切りする1~5分くらいは、話を遮らず、ひたすら丁寧に聞く姿勢を貫き、相手を観察する時間として捉えたいものです。
もちろん、そこまで丁寧に話を聞ける状況ではない場合もあるでしょうし、相手との関係性によって、調整と判断は臨機応変にする必要性はあるかと思います。ですから、「一区切り」までの時間は、あくまで目安としてください。
「共感」とは、相手を観察する努力を怠り、相手の話す時間を奪うことでもなければ、「~したほうがいい」などと、聞き手が好き勝手に発言するような軽いコミュニケーションではなく、自分の欲求や自己満足をコントロールしようとする意識が求められます。
自分よがりのアドバイスや、正論などで多くを語るよりも、相手の話を傾聴し、そこから細やかに観察し、共感する態度には、語ること以上に、その人自身の全てが表れていることになるのです。
相手に“敬意”をもって話を聞く姿勢が大事
うなずきや、相づちも効果的ではありますが、言うまでもなく、それらのノンバーバル(非言語的)なコミュニケーションさえ実践していれば、共感しているということになるわけではありません。
また、共感するときに「賢いと思われたい」「気のきいた一言が言いたい」などから、“相手の話を正確に要約しなくては!”と気負いすぎて、共感することを自分の知性の見せ場だと勘違いしてしまうのも避けたいところです。
繰り返しますが「共感とは、自分以外の人の経験を敬意とともに理解すること」です。
そこで、敬意を持って共感することを具体的な言動に落とし込む方法を紹介します。
【敬意のある共感のための言動ポイント】
- 相手の話を遮らずに徹底して聞く (ひとつの話題の区切りがつくまで、あるいは1~5分は聞き続ける覚悟を持つ)
- 過剰な反応をしない (嫌悪感や、驚きを隠す必要はないが、話の流れを止めるほど、派手に反応せず、自然かつ適度な反応で聞く)
- 観察する (話の内容、表情、声色、感情などを五感で感じながら集中して聞く)
- 評価しない (「あなたが悪い」「あなたが不注意だったのでは?」「それは絶対に騙されている」「うまくいくはずがない」などと、勝手に内容を評価しない)
- 強要しない (「そんな会社は辞めなさいよ」「そんな人とは縁を切りなさいよ」「連絡しないとダメだよ」などと、勝手に相手に行動を強要しない)
- 要求を知る (最後まで話を聞いたうえで「私にできることは何かありますか?」「(気持ちを落ち着かせるために)飲み物を買ってきましょうか?」「(限られた時間で十分に話を聞けなかったとき)改めて時間を取りましょうか?」など)
- お礼を伝える (「聞かせてくれてありがとう」「話してくれてうれしいです」など)
ちょっとした敬意ある共感によって、相手は安心感を持ち、たとえ一時的だとしても気持ちを落ち着かせることができるかもしれません。
そのように敬意を持って自分を理解してくれる人とは、一生、大切にしたい特別な存在として付き合いたくなるものです。