トップアイドルと地下アイドルがリングで戦う

――たしかにバックボーンを知ると、また見え方も変わりそうです。

小島 4人とも、いわゆるアイドル戦国時代から空前のアイドルブームが巻き起こるタイミングでアイドルになっているんです。当時の話を振り返ることで、異常だったアイドルブームのリアルを知ることもできる。このあたりの話はプロレスファンよりもアイドルファンのほうが面白く読めるんじゃないかな?

ドームツアーをやってきた48グループのメンバーと、いわゆる地下アイドルだった子がめぐりめぐって、いま、同じリングで殴り合っているわけですから。

――この本の導入部は、その「東京ドーム」になっているんですよね?

小島 昨年2月に東京ドームで開催された武藤敬司の引退興行に、東京女子プロレスが第0試合としてラインナップされたんですよ。その試合を記者席から見ていて、やっぱりグッときて。表紙になっている4人がチームを組んでの8人タッグマッチだったんですけど、アイドルとしてメジャーリーガーの荒井優希は別として、ほかの3人はアイドルではドームまで到達できなかったわけですよ。もちろん、アップアップガールズ(プロレス)には、この先、まだまだ可能性はありますけど。

そんな彼女たちが長い花道を楽しそうに歩いて、ズラッとドームのリングに並んだ瞬間、こんな“ウソみたいなホントの話”があるんだなと思いました。

――そう言われると、まるで映画みたいですよね。

小島 ただ、ドームに集まっていたのは武藤敬司を見送るためにやってきたお客さんがメインで、東京女子プロレスは初見の方が大多数だった。それこそ、彼女たちがもともとアイドルだったことすら知らないわけで、4人がドームのリングに立ったことでグッときている人は本当に少なかったと思うんですよ。これはもったいないなぁ〜と思ったし、もっともっと彼女たちのことを知ってもらいたい、と。

だからこそ、この本は4人の物語にしたんですよ。東京ドームを0地点として、そこまでのそれぞれの道のりをしっかりと描きたかったし、そこから先のストーリーはぜひ、皆さんにリアルタイムで追いかけてもらいたい。ある意味、東京ドームの記者席で本の骨格は瞬時に完成していたんです。

――そうなんですね! 

小島 ただね、いざ出版しましょうとなったら、いろいろと欲が出てしまって、企画書には他の選手の名前もたくさん入れちゃった(苦笑)。東京女子プロレスにはアイドルだけでなく、タレントやグラビアからの転向組が多いので、“もう全員、登場してもらいたいな”と考えたんです。

でも、それをやってしまうと1人あたりに割けるページ数も減ってしまうし、いわゆるカタログ的なものになってしまう。そうなるとやっぱり4人に絞るべきだなと。この本が売れたら、ぜひ、初期の企画書に名前が入っていた選手たちでもう一冊、書きたいですね。

「アイドル×プロレス」の土壌は少し前から作られていた

――小島さんは2017年に『アイドル×プロレス』という本をワニブックスから出版していますよね。

小島 それこそ、この本は『アイドル×プロレス』の正統後継作なんですよ! あの本を書いたのは、AKB48グループ総出演のドラマ『豆腐プロレス』が放送されて、アイドルとプロレスの距離がグググッと縮まったタイミング。

フジテレビの三宅(正治)アナウンサー、女子プロレスラーからは紫雷イオ(現WWEスーパースターのイヨ・スカイ)、アイドルからはももクロの高城れに。いま思い返しても豪勢なメンバーに登場してもらったんですけど、本の締めにはDDTプロレスリングの高木三四郎大社長に出ていただいたんです。

――東京女子プロレスはDDTと同じグループ団体です。

小島 そのときの対談で高木大社長が「いまアップアップガールズ(プロレス)のオーディションを開催している」と、これから先の可能性を熱く語ったうえで、48グループのプロレス参入にも鋭く言及しているんですよ。

それが7年経って、48グループのメンバーが本当に東京女子プロレスのリングに立って、アップアップガールズ(プロレス)の渡辺未詩が、ついに3月31日の両国国技館大会でメインイベントを張ることになった。これはもう7年前に書かれた「予言の書」ですよ! ワニブックスさん、先見の明ありすぎ!(笑)

▲3月31日、両国国技館でメインを張る渡辺未詩 ©東京女子プロレス

――その頃から小島さんも注目していたということですよね。

小島 というか、じっくりと7年もかけて「プロレスとアイドル」に取り組んできた東京女子プロレスがすごいんですよね。本当だったら1~2年でパパッとやりたくなってしまうところだけど、ちゃんと基礎の土台からプロレスを学ばせて、しっかりと挫折や悔しさも味わわせた。その道のりは本にすべて書いていますが、それを知ったうえで両国国技館の試合を見ていただければ、より深く楽しめると思います。

――3月の両国国技館で、渡辺未詩さんが団体最高峰のプリンセス・オブ・プリンセス王座に挑戦するだけでなく、年頭の試合では荒井優希さんもインターナショナル・プリンセス王者になりました!

▲インターナショナル・プリンセス王者になった荒井優希 ©東京女子プロレス

小島 これは本を書いているときには想定もしていなかった展開です。いや……いずれは、この現役アイドルの2人が頂点に立ってほしいとは思っていましたし、本でも言及していますけど、昨年末に書き終えた時点では“いつか、そんな日が来たら”ぐらいのニュアンスだったんですよ。

ぶっちゃけ2025年にそうなっていればいいな、と思っていたくらいです。その直後に荒井優希がチャンピオンになって、その2日後に渡辺未詩が両国国技館でのメイン出場権をゲットしたのでびっくり。

しまった……。こうなるんだったら、4月発売にして両国国技館で先行販売すればよかったなと思ったり(笑)。それだけ彼女たちの成長のスピードがとんでもないことになっているってことですよね。

当初は彼女たちの記事をWebで連載するプランもあったんですけど、今回の本の内容を週イチで連載したら、だいたい1年かかっちゃう。だから、ここでドンと一冊にまとめて本当によかったです!