2020年を迎えて、メディアへの露出も大幅に増え、注目を集めている女子プロレスの世界。いまやほとんどが「アイドルレスラー」といっても過言ではないほどビジュアル的にも華やかになったが、北斗晶や神取忍が築きあげた90年代の“対抗戦ブーム”のときは、まだまだアイドルレスラーは希少価値の高い存在だった。

そんな時代に『週刊プロレス』で女子プロレスを担当していたのが小島和宏記者。いまでは『ももクロ春夏秋冬ビジネス学』(小社刊)など、アイドル関連の著作で知られているが、そのルーツはアイドルレスラーの記事作りにあった!?

そんな小島記者が巣鴨・闘道館で開催された「夢のアイドルレスラー『超絶』大戦!~対抗戦ブーム、もうひとつの真実~」と銘打たれたイベントに登場。この日の主役は90年代を彩った2大アイドルレスラー、工藤めぐみと府川唯未!! トークの内容は拡散禁止、というルールで開催されたイベントの全貌を『NewsCrunch』のために小島記者が激筆する。

FMWの邪道姫と、全女のスーパーアイドルの夢の競演!

昨年11月に『憧夢超女大戦 25年目の真実』(彩図社)という本を出版した。
90年代前半に沸き起こった女子プロレスの「対抗戦ブーム」の舞台裏を描いたドキュメント本なのだが、あえてレスラーの証言をメインに据えず、当時のフロント陣が群雄割拠の時代にいかにして自団体を目立たせ、生き残らせるための駆け引きをしてきたのか? という部分にスポットを当ててみた。

当時の試合はほとんど映像が残っているので、表面的な話はそれを見ればだいたいわかる。だが、その舞台裏で同時進行していたシビアすぎる交渉は、こうやって書き残しておかないと語り継がれることすらなくなり、いつか忘れ去られてしまう。

そんな使命感を帯びて書いた一冊だったが、唯一の問題は「こんな本、売れるのか?」ということ。ところがありがたいことに発売日に重版が決まる、というロケットスタートを切ることができた。

今回のトークイベントの舞台となったプロレスショップ・闘道館の泉館長と話していたら、「お客さんが懐かしい! と本当に思うようになるには10年では早すぎて、やっぱり25年から30年はかかるんですよ」と指摘された。つまり平成初期(90年代)の話題がなつかし商戦では、まさに旬ということになり、この本はベストなタイミングで世に送り出されたわけだ。

「せっかくなので、当時の選手を招いて出版記念トークショーをやりませんか?」

そんなオファーをくれたのは、対抗戦ブーム時にJWP女子プロレスの代表を務めていた「ヤマモ」こと山本雅俊氏。この本の中でも貴重な証言を寄せてくれているのだが、元々、リングアナウンサーが本業なのでMCは絶品で、僕も超マニアックすぎるプロレスのトークイベントに何度か呼んでいただいたこともある。

そんなヤマモが提示したマッチメークは『工藤めぐみvs府川唯未』だった。

ありそうでなかった顔合わせ、である。

FMWの邪道姫と、全女のスーパーアイドル。

実際、リング上で闘ったことは一度もない。活動していた期間は結構、被っているのだが、府川がケガで長期欠場していたこと、そして工藤の引退後に府川が本格的にレスラーとして覚醒した、というタイミングもあって、2人の絡みは幻のまま終わってしまった。

その顔合わせがトークイベントとはいえ、なんと令和の世に実現する。

本を発売するときには「売れるのか?」という不安があったが、このイベントに関しては、まったく不安がなかった。事実、大々的な告知を打つ前からチケットは飛ぶように売れ、急きょ、イベントスペースを拡張しての開催が決まったほど(当日は超満員の観客で埋め尽くされた)。いつの世も「夢の初対決」はファンの興味を強烈に惹きつけるのだ。

左から小島和宏氏・工藤めぐみさん・府川唯未さん・山本雅俊氏

ももクロで学んだ「打合せも台本もなしで!」

当日の内容に関しては、「基本、ノー拡散で」とここだけの話であることをお客さんには開演前に伝えた。その日の夜から彼女たちの写真はSNS上にたくさんアップされたものの、トークの中身はまったくといっていいほど流れていなかった。

インターネットなどなかった90年代、プロレス業界ではこういったレスラーと観客の心地よい“共犯関係”が成立していた。そんなことを2020年に再認識できるなんて……いやはや、こればっかりはやってみなくてはわからない!

ちなみにトークイベントは打ち合わせなしのぶっつけ本番。さすがに2人からは開演10分前になって「あのー、打ち合わせは……?」と聞かれたが、「なにかNG項目があれば、いまのうちに教えてください」とだけ尋ねて、「なにもないです」という返答をもらったところで終了。あとはステージ上ではじめて質問を投げるシステムにした(トークショーの後半はヤマモ秘蔵のお宝写真を見ながらのスライドショー形式で進められたが、その写真すらもステージ上が初見となった)。

実はこのやり方は、ももクロで学んだことでもある。

まだ、ももクロの取材を始めて1年ぐらいしか経っていないころ、横浜アリーナで開催されたファンクラブイベントのステージ上で、僕はメンバーとトークショーをやることになった。いまでこそメンバーとの信頼関係も構築されているので、いきなりカメラを回されたりしても、なんとか形になるトークが展開できるが、その時点ではそこまでの自信がなかったので、やはり事前に打ち合わせをしておきたかった。なにせ目の前にいるのはファンクラブに入会している熱心なお客さんばかりなのだ。下手な話では満足してくれない。

ところがマネージャーの川上アキラは「打ち合わせも台本もナシで!」と言い放った。ここではじめて投げる質問だから、面白いリアクションが見られるし、そこから先の展開も計算できないから面白い、と。それを「1万人の前でやれ!」というのもすごい話だが、そんなことを何度となく続けることで僕も相当、鍛えられた。

アイドルの世界で学んだことを、元プロレスラー相手に試す。

これは自分の中でもなかなか刺激的な体験だったし、事故ったとしてもヤマモがうまいこと拾って、回してくれるという安心感があったからできたことでもある。これぞ「プロレス者」ならではのコンビネーション!

府川唯未は経験したことのない有刺鉄線や爆破デスマッチの凄絶すぎる舞台裏を聞いて絶句し、逆に工藤めぐみはいまだからこそ笑って話せる府川の全女時代の壮絶な裏話に驚嘆した。

工藤めぐみさんの口からは驚くべき新証言も飛び出した

ほぼ同じ時代にプロレスラーとして生きてきたのに、まったく違う世界を生きてきた2人。そんな団体同士が対抗戦を繰り広げていたのだから、もうそれだけで刺激的だし、ブームが巻き起こるほど面白くなったのも当然の話だと再確認できた。