「肝」を働かせて体の調子を整える
花粉症で憂うつな季節とはいえ、本来は、春はエネルギーが満ちていく新しい1年の始まり。春は「発生」の季節であり、私たちが1年を健やかに過ごせるかどうかは、この春をいかに快適に過ごすかにかかっているといっても、過言ではありません。中医学では、春を「発陳(はっちん)」といい、古いものが新しくなり、あらゆる万物が芽吹き、成長し始める季節だと考えられています。
中医学的に、春は五臓の肝(かん)の季節です。肝が持つ機能は大きく分けて、疏泄(そせつ)と蔵血(ぞうけつ)のふたつ。
(注) 中医学の考えで、「五行論」に基づく「肝、心、脾、肺、腎」の5つを「五臓」といいます。いわゆる「五臓六腑」の五臓にあたります。
疏泄とは、津液と呼ばれるうるおい(水分)、栄養を運ぶ「血(けつ)」、そしてエネルギーである「気」の流れが滞りなく流れるようコントロールする働きのこと。仮に、津液が滞るとむくんだり、血が滞ると腫れて痛んだり、気が滞ると情緒が不安定になり、あるいは、胃腸などの消化系がうまく働かなくなったりします。
蔵血は、いわゆる血を蓄える働きをしています。血は、全身の細胞や組織、器官に栄養とうるおいを与えていますが、その血を蓄えておくのが、肝のもうひとつの役割なのです。
肝に蓄えられているはずの血が不足すると、体のあちこちに栄養が届かず、正常な働きができなくなってしまいます。たとえば、目がショボショボしたり、筋肉がピクピクしたり、立ちくらみを起こしたり、不安感が増大したり、不眠になったり……。
女性であれば月経に不調が出るようになりますし、また、皮膚や髪の毛が乾燥しやすくなってしまいます。
春は、この肝がよく働く季節ですから、自分の体を、肝がうまく働きやすい状態にしておくことが肝心です。
中国最古の医学書と呼ばれている『黄帝内経』(こうていだいけい)にも、春について、次のような説明があります。
「春の3か月は「発生」の季節。万物が芽生え、天と地のあいだに生き生きとしたエネルギーが満ちあふれる。春は、少々の夜更かしはかまわないが、朝は早く起きよう。そして、朝には庭をゆったりと散歩し、髪をときほぐして、服装もゆるくして、体をのびのびと動かそう。
精神的には、今年はこれをやろう・あれもやろうと、やる気を起こすのがよく、心持ちとしては何事も生まれよう・伸ばそうとするのはよいが、制限を加えるのはよろしくない。また、やる気が失せるようなことは思うべきではない。
人に対しても、褒めたり励ましたりすることはよいが、虐げたり罰したりすることのないように心がけるのがよい。これに背くと、春に活動する肝気が痛み、夏になって寒性の病にかかりやすくなる」と。
つまり、春は、のびのびと過ごすことが大切だということ。そうすることで、肝の持つ疏泄の機能が正常に働き、心も体も安定しやすくなるわけです。
そして、この1年を健やかに過ごすための良いスタートとなることでしょう。