大谷翔平選手が体調管理で一番気にしているのが「睡眠」という話は有名です。最低でも10時間は寝ているとも言われていますが、メジャーリーグで活躍する姿を見れば、睡眠の重要性に気がついた人も多いのではないでしょうか? SNSでも大人気の「ゆるゆる漢方家」櫻井大典氏が睡眠について、中医学の知識をもとにしてわかりやすく解説してくれました。

※本記事は、櫻井大典:著『櫻井大典先生のゆるゆる漢方生活』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

だるい、目がツラい…それ睡眠不足かも?

皆さんは「人は食べなくてもしばらく生きていられるが、眠らないと2週間もたない」と言われていることを、ご存知ですか? これは、脅しではありません。それほどまでに、睡眠は私たちにとって大切だということです。

私たちの脳は、睡眠中に記憶を整理し、必要なものを固定して、不要なものを消去しています。もちろん、うっかり必要なものを消去してしまうことも多々ありますが……。そして、体のほうはというと、睡眠中に不具合を起こした箇所を修復したり、新しく成長させたりする活動をしています。

紀元前に書かれた中医学最古の古典『経 問(こうていだいけい そもん)』には、「人は横になると、血(けつ)は肝(かん)に帰る。起きているときは血が働き、よく見えるようになる」と書かれています。

つまり、中医学では、全身に栄養を届け、精神の安定にも関与している血は、日中に全身を駆けめぐり、夜になると五臓の肝に戻って浄化されると考えているわけです。したがって、よい睡眠が得られないと、肝に戻れない血はどんどん汚れていき、そのため、体のあちこちで不具合が出るようになり、精神も不安定になっていきます。

血を蓄え浄化する働きをする肝と、それに付帯する(ろっぷ)の胆(たん)。この2つの臓器がよく働く時間帯を、中医学では午後11時から午前3時のあいだとしています。つまり、この時間にしっかり眠って肝と胆を養生することが、心身の健康の維持には不可欠というわけですね。

▲だるい、目がツラい…それ睡眠不足かも? イラスト:吉田アキコ / PIXTA

ちなみに、眠るときは母親の胎内にいるような姿勢、つまり横向きで軽く足を曲げて寝るのがよい、という考えもあります。心臓が圧迫されず、胃腸も動きやすく、全身がリラックスしやすいので、体の隅々まで酸素や栄養素が行き渡るからだそうです。

また、これは個人的な感覚なのですが、手を胸の上に置いて寝ると、悪夢を見る傾向にあります。なぜでしょうか(笑)。単純に苦しいからかもしれませんが、皆さんもお気をつけを。

そして、寝る前には部屋を暗くして、リラックスモードに切り替えること。夜が来たことを認識させるメラトニンというホルモンには、良質な睡眠をもたらし、体の成長や修復に必要な成長ホルモンの分泌を促す働きがあります。

ただし、光を感じると、このメラトニンの分泌が減少するため、スマホやテレビを寝る直前まで見るのは避けましょう。(こうこう)と電気をつけていては、脳は朝と勘違いして眠りが促されませんし、疲れも取れません。上手に間接照明を使うとよいかもしれませんね。

筋肉をほぐして体を適度に温め、体を眠りやすい状態にするには、少々早めの入浴もおすすめ。そのとき、好きな香りの入浴剤などを使うとさらに効果的です。よい睡眠は体のためだけでなく、心にとっても欠かせないものなのです。

できれば、毎日11時前の入眠を心がけたいものです。忙しくて「11時なんて到底無理!」という人も、休みの日だけは、10分でも早く寝るように心がけてみてください。

心と体の健康のためにもしっかり眠って、心地よい朝を迎えましょう。

しんどいときは10分でも早く寝よう!

どんな体調不良であれ、中医学における改善法の第一歩として「まずは睡眠!」ということを、ぜひ覚えておきましょう。

睡眠は、体と心を整える基本中の基本です。

私のもとへご相談にいらっしゃる方々にも、口を酸っぱくして睡眠の重要性をお話ししているのですが、それは、どれだけ効果的で高価な薬や漢方を使っても、睡眠がおろそかになっていると、期待した結果は得られないからです。

中国には、「仙方を探すより、睡方を探すことが先決」という言葉があります。仙方とは、不老長寿の薬という意味で、睡方とは眠れる薬という意味。少々極端に感じられるかもしれませんが、何をもってしてもまずは眠ることが先決、というわけです。

したがって「時間が余ったら眠る」ではなく、「睡眠を最優先にしてスケジュールを組む」ことを心がけてみましょう。

「早く寝ろと言われても、そんなに早く眠くならない」という人も多いです。そんな人にお伝えしたいのは「早く寝るコツは、早く起きること」ということ。

私たちの体に、眠る時間を知らせるホルモンのメラトニンは、起床から14~15時間後に分泌が始まり、その後2~3時間でピークを迎えます。つまり、午後11時に眠くなるには、朝6時に起きるのが理想ということですね。ついつい、就寝が遅くなりがちな方は、いつもより1時間早く起きる習慣をつけてみましょう。

毎日、どうしても仕事で帰宅するのが遅い、あるいは、夜勤があるという方は、休みの日だけでも、1日でも多く、11時までに眠る日を作るよう、心がけてみてください。

▲しんどいときは10分でも早く寝よう! イラスト:mstjahanara / PIXTA