アオリイカの頭の唐揚げを食べてほしい

ちなみに、彼女自身が好きなイカは、巨大なダイオウイカとは正反対の小さなイカ、ホタルイカだそう。

「本当はちっちゃいイカが好きなんです(笑)。光るところも好き……といっても、イカの40%くらいは光るんですよ。春になると、なぜか深海からわざわざ出てくるという、季節を感じられるところも好きですし、体の仕組みも素晴らしいんです。

カウンターシェーディングと言って、お腹側が光るんですが、なぜかというと、太陽が上から当たりお腹側に影ができると、捕食者からは見えやすくなります。でも、お腹が光れば太陽光と馴染んで影が消えるから、捕食者から見えにくくなるんです。しかも、目の上にある小さい窓のようなものから光を感知して照度を測り、“今はこれくらいの明るさで光ろう”とコントロールもしているんですよ」

「唯一、色が判別できるイカ」「富山でのホタルイカすくい」などなど、さまざまなエピソードを語り続ける彼女。「魅力を全部語り尽くそうとしたら3時間はかかっちゃいます」と笑顔を見せた。

▲イカの魅力を語るには時間が足りませんね

ここから、イカマニアの彼女ならではの情報を聞き出してみた。まずは、「イカを食べることが好き!」という読者のためにイチ押しの食べ方を聞いた。

「一般的によく手に入るのはスルメイカですよね。スルメイカは、他のイカと比べて肝がすごく発達しているので、肝を活かした肝炒めか塩辛がおすすめ。新鮮なスルメイカが手に入ったら、ぜひ試してみてください。マニアックなレシピだと、アオリイカの頭の唐揚げが私は大好きです。解剖するたびに冷凍して取っておいて、半分に割って唐揚げように揚げて食べています。よく揚げて食べると美味しいですよ」

イカ素人のために、アオリイカの頭はどこなのかのご教授を。

「三角のところが頭と勘違いしてる人もいるかもしれませんが、あれはヒレなんです。イカの頭は、お腹とゲソのあいだ。いわゆるトンビと言われる口があるあたりです。スルメイカで作っても美味しいですよ」

▲アオリイカの頭の唐揚げを食べてほしい

それでは、イチ押しのイカの産地は?

「甲乙つけがたいですね。震災で被災されてしまった石川県の能登も素晴らしいイカの産地ですし。個人的には、最近行った佐渡が印象的でした。イカの文化が残っている島で、いずれ本にしたいなと思うくらい。佐渡の案内人の方に聞いたんですが、佐渡は古い文化がなくなってきてしまっていて、それはイカに関しても同じとのこと。

郷土料理やイカ徳利の作り方、昔の漁法などが失われてしまったそうです。それを調べて、写真と文章で残したいと思いました。また、佐渡はイカ釣り発祥の地のひとつとも言われていて、ここから能登や北海道の函館、青森の八戸のほうまでイカ釣りの漁法が伝わったそうなんですよ。そういうところにも惹かれました」

 まいけるさんのイカ活動は、どんどんと幅を広げていきそうだ。最後に野望を聞いた。

「マグロの解体ショーのように、私がイカを解剖するところを皆さんに解説付きで見ていただいて、そのイカを料理して食べるというイベントをしています。今年の2月にも、東京・大森にある南インド料理店の“ケララの風モーニング”で、沼尻シェフに協力していただいて開催することができました。

あとは、3時間みっちり解剖だけをやるコースや、夏休みのお子さん向けにもやりたいです。“イカ好きを増やしたい!”と野望に燃えているわけではないんですが。イカを食べるだけでなく、生き物として見ると楽しいよ! と、面白がる人が増えたらいいなと思ってます」


プロフィール
佐野 まいける(さの・まいける)
『いか生活』編集長。『日本いか連合』所属。X(旧Twitter) :@_maicos_